えー、毎度のお運びで。
今日も馬鹿馬鹿しいお話にお付き合いお願いいたします。
あたくし、清水亭聖笑と申します。以後お見知りおきを。
この名前もですね、ふとしたことからついちゃったんです。
ふざけ半分で高座調でブログを書いたら受けに受けて、龍という友達がコメントに清水亭聖笑という名前をつけてくれました。
この友達というのが古い付き合いでして、昔は互いにやんちゃを共にした仲。
どんな悪さをしたかって?
へへ、悪さと言えば飲む打つ買うってのが相場でしょうが、そんなの一々聞くのは野暮ってもんです。
奥さんとの馴れ初めも知っていますし、その奥さんと一緒にスキーパトロールとして働いたこともありました。
当時我々はクィーンズタウンを拠点にブイブイ言わせておりまして。
その奥さん、当時はまだ奥さんではありませんがこの娘がまた可愛くてね。
髪はショートカットでちょっとボーイッシュ、クィーンズタウン小町などと呼ばれておりました。
狭い町なので噂が広まるのも速い、みんな若い盛りなので男共はみんなその娘を狙ってる。
そんな中でさらりとその娘をさらっていったのがこの男、いつのころからか二人で手をつないで街を歩いてたりなんかして。
失恋にあけくれた男共が悲しみにくれて昨日一人、今日一人、ボチャーンボチャーンと真冬のワカティプ湖に身を投げる始末。
この男が個性の塊のような仁でして、あたしもかなり個性は強い方ですが負けず劣らず、類は友を呼ぶと申しますな。
若い時にはずいぶんとがっていて、出る杭は打たれて出すぎりゃ抜かれてという具合で苦労もしましたが、今では千葉に新居を構えて夫婦仲むつまじく一姫二太郎という家族をもっています。
去年に日本に帰った時も成田にJCと迎えに来てくれて、ニュージーランドに帰る時には空港まで送ってくれたわけです。
え?JCって誰かって?
あーた、それをここで聞いちゃいけない。
それこそ話の収集がつかなくなっちまう。
そういうのはですね、『ああ、きっとJCという人の話もいずれ高座にでてくるんだろうなあ』というひそかな期待を持ちつつ、毎日をつつましく明るく生きるんです。
えー、その龍という友人がつけてくれたこの名前、清水亭聖笑。
好いか悪いかは別として、ついちまったものはあたしのものです。
ちなみにあたしの好きな歌手で竹原ピストルという人がおりまして。
この人の名前が友達につけられたそうです。
まだ無名だったころにつけられて、それでやっているうちにメジャーになった。
今さら変えられない、と本人はちょっぴり後悔しているようです。
きっと飲み会の席かなんかで酔っ払ってついちゃったんですかねえ、トーマスのように。
あたしも清水亭聖笑を襲名しましたから、いずれはこの名前で本でも出しましょうか。
さてウンの話です。
先日、犬の散歩に近所の公園に行った時のことです。
近所の公園と言ったってそんじょそこいらの公園とは違う。
広大な敷地には羊の牧場あり馬のパドックあり、池もあり野鳥もたくさんいます。
馬のパドックを通った時に馬糞がたくさん落ちていた。
これを肥料にしたらどうかな、などと考えました。
そんなおりにばったりと羊の移動にでくわしました。
そこでは時々おじさんが車で羊を移動させているのですが、この時はなかなか羊がいうことを聞いてくれずうまく動いてくれない。
あたしも長いことニュージーランドにいますし、縁あって牧場にも住み込みでいましたから羊の移動のやり方を知っている。
なので犬のココと一緒に羊の移動を手伝ったんです。
その時におじさんに聞きました。
「こんちやー。あのですね、馬のパドックに落ちてる馬糞、持ってってもいいですか?」
「おうよ、お前さんならかまわんよ、好きなだけ持ってきな」
「まあ一輪車に一杯ぐらいなんで」
「ああ、いいよ。勝手にきてやってきな」
「ありがとさん」
そんな具合に許可も得た翌日。
「兄貴、兄貴じゃありませんか。おはようございます」
「おお、八か、おはよう。」
「兄貴、犬の散歩ですか。それにしては妙なものを持ってる。ネコ車なんぞ押してどこへ行くんですかい?」
「ああ、そこの公園に馬のパドックがあるだろ。そこに馬糞を拾いに行くところなんだ。ちょうどよかったお前もついてこい」
「馬糞って馬のクソでしょ。なんでそんなものを?」
「庭の肥料にしようと思ってな」
「ほう、相変わらずマメなお方だね。まあ天気も好いですし、よござんしょ、お供します。」
小川にかかる橋を渡って公園に入ります。
「兄貴、兄貴、こんなところにうなぎがいるじゃないですか。ひいふうみいよう。いやあずいぶんたくさんいますな。食えるんですかい?」
「おお、その鰻は何年か前から住みはじめてな。いつか捕って蒲焼にしてやろうと俺も狙ってるんだ。ちょうどいい、お前川に入って何匹か捕まえて来い。」
「いやですよ。こんな寒い中に水に入るなんて。犬のココに捕らせたらどうです。」
「ダメだよこいつは。夏の暑いときは時々ここで泳ぐんだが、鰻の上をスーッと素通りだ。今度、罠を仕掛けようかと思ってる」
「じゃあその時は呼んでくださいよ。おっと、この先の茂みを抜けると、見えてきた見えてきた。白い雪をかぶった山が今日もよく見えるじゃないですか、兄貴」
「ああ、この遠くに山が見える景色が好きでなあ。」
「あそこがハットで、あの山がポーターズですかい。よおく見ればビッグママの斜面も見えるじゃないですか。それはそうとこの前ブロークンリバーに行ったんですって?ブログで読みましたよ。どうでしたかい?」
「そりゃ良かったさ。なんて言ったって待ちに待ったシーズン初日だよ。言うなれば初物だ。初物を食わねえのは江戸っ子の恥って言うじゃねえか?食ってきたさ、今シーズン初のパウダーさ。そりゃ旨いに決まってる。人が少なくて滑っても滑っても、あっちにもこっちにも残ってる。それをお前はみすみす逃して大馬鹿野郎だね」
「そう言わねえでください。あっしも野暮用がありましてね。でもやっと山も開いて冬らしくなりましたね」
「全くだよ。一時はどうなるかと思ったがな。おう、そこのゲートを開けてくれ。ネコ車を通してと、ココも早く入れ。八はそこを閉めて来てくれ。」
「へい、しかしこの牧場のゲート。まあニュージーランドですからどこもかしこも牧場で羊はいるんですがね。街の中で、それも住宅地のすぐ近くでこういう牧場がある環境ってなかなかないんじゃないですかい?いやあいい公園ですね、ホント。お日様もポカポカと気持ちいいや、へへ。お、見えてきた見えてきた、あれがクソ畑ですね。」
「なんだい、そのクソ畑ってのは」
「いえね馬のクソがあちこちにあって畑のような場所でクソ畑」
「くだらないことを言ってるんじゃないよ。第一お前はクソ、クソって言うけど、あれはウンコ。縮めてウンだ。ウンと言えば運。運がいいと言えば付いてる証。付いていれば何事も上手くいく。バクチでも丁と張れば丁が出る。半と張れば半が出る。今回はと見送ればさいころが重なるというように運が好いというのはそういうことだ。その運を拾いに行くんだ。こんなありがたいことはないじゃないか。それをお前はクソクソと言ってりゃ幸運だって逃げちまうよ。」
「あい、すみません。じゃあ、あっしもその運のおこぼれにあずからせていただきやす。それはそうと馬がいないじゃないですかい。」
「昨日まではいたんだよ。どこか別の場所に移したんだろ。ほら向こうの方で馬のいななきが聞こえるじゃないか。これならココを繋がなくても大丈夫だな。もし馬がいたら繋がなきゃと心配してたんだよ」
「あっ、兄貴、大変だ。ココが馬のクソじゃなくて馬のウン様をくわえてる。」
「なんだいそのウン様ってのは?」
「少しでも幸運にあやかろうと思って様をつけみました」
「馬鹿だねお前は。そんなところで様をつける奴があるか。」
「それよりさっきからココが馬糞をくわえてウロウロしてるんですが、あっ、あっ、ごっくん。飲んじゃった。食っちまいやしたよ、兄貴」
「ああ、たまに羊の糞とか馬糞とかくわえてて飲みこんじゃうことがあるんだ。後で吐いてたりするがな。」
「へえ、兄貴の家の夫婦喧嘩は食わないけど馬糞は食っちゃうんですね。すると兄貴の夫婦喧嘩はクソ以下ということですかい」
「馬鹿なことを言ってんじゃないよ。それより手を動かしな。この用意したスコップで馬糞を拾って一輪車に乗せるんだ。」
「へいへーい。♪犬の散歩に馬糞拾って積むのはネコ車、あチョイチョイと。あれ、兄貴、何か軽トラが来ましたよ。何か車の後ろに鎖のようなものを引っ張ってぐるぐる走ってる。何をやってるんですかね」
「馬糞というのは塊になってるだろ、そのままだと分解も遅いし、下の草も生えてこないからああやってばらけさせているんだろう。そこに前のヤツが転がってるだろう。」
「へえ、こいつですか、確かに乾燥して匂いもなく、干し草って感じですね」
「それに俺たちがここの馬糞の塊を持っていけば、あの人の仕事も減る、わずかだがガソリンも節約になる。一石3丁とはこのことだ。」
「ふうん、上手いもんですなあ。あれ、今度はこっちに来たよ。乗ってるのは若い女の子だ。可愛いね、へへ。あ、停まった。兄貴となんか楽しそうに話してるぞ。いいなあ。ココも頭なでられて尻尾振って喜んじゃって。あ、行っちゃった。兄貴、兄貴、何を話してたんですかい。『そこの素敵な御仁はどなた』なんて言ってましたかい」
「言ってねえよ、そんなこと。俺もよあの娘は今まで見たことは何回かあったが話をしたのは初めてでな。日本人ですか、はいそうです、って言ったらよ、お父っつあんはイギリス人、おっ母さんは日本の広島の出だそうだ。もっともここで生まれ育ったから日本語は少しだけだって言うがな。こちらのことも色々聞かれたからスキー関係の仕事をしています。ハットですかと聞かれ、いえいえ主にポーターズとかブロークンリバーなんぞに行ってますと言ったら、驚くことにクラブフィールドのこともよく知ってるじゃねえか。それでこの前のオープンの日のことでひとしきり話して盛り上がったってわけだ。わかったかい、こんちくしょうべらぼうめ」
「なんだい、その最後のこんちくしょうべらぼうめってのは」
「いやよ、あまりに一つの台詞が長かったから勢いでな。まあ後は向こうのパドックのどこそこに行けばもっと馬糞はあるよなんて話をしたのさ。どれ、あらかた馬糞も溜まったことだし、そろそろ帰ろうか。」
「兄貴、こうやって持ってみると案外軽いんですね。土なんかネコ車に一杯にしたら重たくてヨロヨロしちゃうじゃないですか。これぐらいなら楽勝だい。そんでこれを持って帰ってどうするんです?」
「うむ、地面に穴が掘ってあって、そこで堆肥をつくるんだが、今は一つ空いているのでそこに入れてイーエムで分解させようと思ってる」
「へえ、あのドイツの車、あれを使うんですか」
「何を言ってるんだね。そりゃビーエムだろうが」
「さいですか。ああコマーシャルのこと?」
「それはシーエム」
「ダイレクトメール?」
「それはディーエム。いい加減にしろ、全くお前は。イーエムのことを知らんのか?以前のブログにも書いたはずだぞ、何?読んでないって、しょうがないな、探してあげよう。どこだったかな、あれはだいぶ前の話だったな。あった、あったこの話だ。読んでみろ。」
「へえ、なになに、ふむ、ほうほう、それで、ふむ、なるほど、あらかたわかりました。しかしなんですな、これが世のためになるんですかい。」
「なる。それにな、お前が運んでいる馬糞、これも世界を救うのだぞ。それがお前には分からないのか」
「へえ、分からないので教えて下さい。」
「よし教えてやろう。まずはこうやって馬糞を使って土を作る。これが良い土になり、良い野菜ができる。特に大根なんか最高だな。さてここに仮に山田太郎くんという子がいるとしよう。この太郎君、不治の病を患い医者からさじを投げられてしまった。親御さんがたいそう悲しんでな、死ぬ前にしたいことはないのかと聞いたら、ニュージーランドに行きたい。それなら生きているうちにとニュージーランド旅行に行くことになった。ニュージーランドでは世話になったガイドさん、すなわち俺のことだが、そこに食事に招待された。そこでうちの大根を使って料理をしたら、あら不思議、どの医者も見放した病がきれいさっぱり治ってしまった。ありがとうございます、せっかく拾ったこの命、世のため人のために使いますと一生懸命働いて出世した。一度は死を覚悟したくらいだから世の仕組みもよく分かる。今のこの世を牛耳っている支配者とも対決してなんと改心させてしまった。そこからは争いや奪い合いのない世界となり、星子が言っているような地球人70億による地球祭へとなっていくのだ。さあ分かったか、この馬糞がゆくゆくはこの地球を救うのだ。」
「いや、兄貴、突っ込みどころがありすぎてどこからつっこんでいいのか分からねえけど、地球を救うなんて、なんでそんな大きな話になるんですかい?」
「そりゃお前、ウンの話だけに、小さいのはいけねえ」
ドンドドンドン
今日も馬鹿馬鹿しいお話にお付き合いお願いいたします。
あたくし、清水亭聖笑と申します。以後お見知りおきを。
この名前もですね、ふとしたことからついちゃったんです。
ふざけ半分で高座調でブログを書いたら受けに受けて、龍という友達がコメントに清水亭聖笑という名前をつけてくれました。
この友達というのが古い付き合いでして、昔は互いにやんちゃを共にした仲。
どんな悪さをしたかって?
へへ、悪さと言えば飲む打つ買うってのが相場でしょうが、そんなの一々聞くのは野暮ってもんです。
奥さんとの馴れ初めも知っていますし、その奥さんと一緒にスキーパトロールとして働いたこともありました。
当時我々はクィーンズタウンを拠点にブイブイ言わせておりまして。
その奥さん、当時はまだ奥さんではありませんがこの娘がまた可愛くてね。
髪はショートカットでちょっとボーイッシュ、クィーンズタウン小町などと呼ばれておりました。
狭い町なので噂が広まるのも速い、みんな若い盛りなので男共はみんなその娘を狙ってる。
そんな中でさらりとその娘をさらっていったのがこの男、いつのころからか二人で手をつないで街を歩いてたりなんかして。
失恋にあけくれた男共が悲しみにくれて昨日一人、今日一人、ボチャーンボチャーンと真冬のワカティプ湖に身を投げる始末。
この男が個性の塊のような仁でして、あたしもかなり個性は強い方ですが負けず劣らず、類は友を呼ぶと申しますな。
若い時にはずいぶんとがっていて、出る杭は打たれて出すぎりゃ抜かれてという具合で苦労もしましたが、今では千葉に新居を構えて夫婦仲むつまじく一姫二太郎という家族をもっています。
去年に日本に帰った時も成田にJCと迎えに来てくれて、ニュージーランドに帰る時には空港まで送ってくれたわけです。
え?JCって誰かって?
あーた、それをここで聞いちゃいけない。
それこそ話の収集がつかなくなっちまう。
そういうのはですね、『ああ、きっとJCという人の話もいずれ高座にでてくるんだろうなあ』というひそかな期待を持ちつつ、毎日をつつましく明るく生きるんです。
えー、その龍という友人がつけてくれたこの名前、清水亭聖笑。
好いか悪いかは別として、ついちまったものはあたしのものです。
ちなみにあたしの好きな歌手で竹原ピストルという人がおりまして。
この人の名前が友達につけられたそうです。
まだ無名だったころにつけられて、それでやっているうちにメジャーになった。
今さら変えられない、と本人はちょっぴり後悔しているようです。
きっと飲み会の席かなんかで酔っ払ってついちゃったんですかねえ、トーマスのように。
あたしも清水亭聖笑を襲名しましたから、いずれはこの名前で本でも出しましょうか。
さてウンの話です。
先日、犬の散歩に近所の公園に行った時のことです。
近所の公園と言ったってそんじょそこいらの公園とは違う。
広大な敷地には羊の牧場あり馬のパドックあり、池もあり野鳥もたくさんいます。
馬のパドックを通った時に馬糞がたくさん落ちていた。
これを肥料にしたらどうかな、などと考えました。
そんなおりにばったりと羊の移動にでくわしました。
そこでは時々おじさんが車で羊を移動させているのですが、この時はなかなか羊がいうことを聞いてくれずうまく動いてくれない。
あたしも長いことニュージーランドにいますし、縁あって牧場にも住み込みでいましたから羊の移動のやり方を知っている。
なので犬のココと一緒に羊の移動を手伝ったんです。
その時におじさんに聞きました。
「こんちやー。あのですね、馬のパドックに落ちてる馬糞、持ってってもいいですか?」
「おうよ、お前さんならかまわんよ、好きなだけ持ってきな」
「まあ一輪車に一杯ぐらいなんで」
「ああ、いいよ。勝手にきてやってきな」
「ありがとさん」
そんな具合に許可も得た翌日。
「兄貴、兄貴じゃありませんか。おはようございます」
「おお、八か、おはよう。」
「兄貴、犬の散歩ですか。それにしては妙なものを持ってる。ネコ車なんぞ押してどこへ行くんですかい?」
「ああ、そこの公園に馬のパドックがあるだろ。そこに馬糞を拾いに行くところなんだ。ちょうどよかったお前もついてこい」
「馬糞って馬のクソでしょ。なんでそんなものを?」
「庭の肥料にしようと思ってな」
「ほう、相変わらずマメなお方だね。まあ天気も好いですし、よござんしょ、お供します。」
小川にかかる橋を渡って公園に入ります。
「兄貴、兄貴、こんなところにうなぎがいるじゃないですか。ひいふうみいよう。いやあずいぶんたくさんいますな。食えるんですかい?」
「おお、その鰻は何年か前から住みはじめてな。いつか捕って蒲焼にしてやろうと俺も狙ってるんだ。ちょうどいい、お前川に入って何匹か捕まえて来い。」
「いやですよ。こんな寒い中に水に入るなんて。犬のココに捕らせたらどうです。」
「ダメだよこいつは。夏の暑いときは時々ここで泳ぐんだが、鰻の上をスーッと素通りだ。今度、罠を仕掛けようかと思ってる」
「じゃあその時は呼んでくださいよ。おっと、この先の茂みを抜けると、見えてきた見えてきた。白い雪をかぶった山が今日もよく見えるじゃないですか、兄貴」
「ああ、この遠くに山が見える景色が好きでなあ。」
「あそこがハットで、あの山がポーターズですかい。よおく見ればビッグママの斜面も見えるじゃないですか。それはそうとこの前ブロークンリバーに行ったんですって?ブログで読みましたよ。どうでしたかい?」
「そりゃ良かったさ。なんて言ったって待ちに待ったシーズン初日だよ。言うなれば初物だ。初物を食わねえのは江戸っ子の恥って言うじゃねえか?食ってきたさ、今シーズン初のパウダーさ。そりゃ旨いに決まってる。人が少なくて滑っても滑っても、あっちにもこっちにも残ってる。それをお前はみすみす逃して大馬鹿野郎だね」
「そう言わねえでください。あっしも野暮用がありましてね。でもやっと山も開いて冬らしくなりましたね」
「全くだよ。一時はどうなるかと思ったがな。おう、そこのゲートを開けてくれ。ネコ車を通してと、ココも早く入れ。八はそこを閉めて来てくれ。」
「へい、しかしこの牧場のゲート。まあニュージーランドですからどこもかしこも牧場で羊はいるんですがね。街の中で、それも住宅地のすぐ近くでこういう牧場がある環境ってなかなかないんじゃないですかい?いやあいい公園ですね、ホント。お日様もポカポカと気持ちいいや、へへ。お、見えてきた見えてきた、あれがクソ畑ですね。」
「なんだい、そのクソ畑ってのは」
「いえね馬のクソがあちこちにあって畑のような場所でクソ畑」
「くだらないことを言ってるんじゃないよ。第一お前はクソ、クソって言うけど、あれはウンコ。縮めてウンだ。ウンと言えば運。運がいいと言えば付いてる証。付いていれば何事も上手くいく。バクチでも丁と張れば丁が出る。半と張れば半が出る。今回はと見送ればさいころが重なるというように運が好いというのはそういうことだ。その運を拾いに行くんだ。こんなありがたいことはないじゃないか。それをお前はクソクソと言ってりゃ幸運だって逃げちまうよ。」
「あい、すみません。じゃあ、あっしもその運のおこぼれにあずからせていただきやす。それはそうと馬がいないじゃないですかい。」
「昨日まではいたんだよ。どこか別の場所に移したんだろ。ほら向こうの方で馬のいななきが聞こえるじゃないか。これならココを繋がなくても大丈夫だな。もし馬がいたら繋がなきゃと心配してたんだよ」
「あっ、兄貴、大変だ。ココが馬のクソじゃなくて馬のウン様をくわえてる。」
「なんだいそのウン様ってのは?」
「少しでも幸運にあやかろうと思って様をつけみました」
「馬鹿だねお前は。そんなところで様をつける奴があるか。」
「それよりさっきからココが馬糞をくわえてウロウロしてるんですが、あっ、あっ、ごっくん。飲んじゃった。食っちまいやしたよ、兄貴」
「ああ、たまに羊の糞とか馬糞とかくわえてて飲みこんじゃうことがあるんだ。後で吐いてたりするがな。」
「へえ、兄貴の家の夫婦喧嘩は食わないけど馬糞は食っちゃうんですね。すると兄貴の夫婦喧嘩はクソ以下ということですかい」
「馬鹿なことを言ってんじゃないよ。それより手を動かしな。この用意したスコップで馬糞を拾って一輪車に乗せるんだ。」
「へいへーい。♪犬の散歩に馬糞拾って積むのはネコ車、あチョイチョイと。あれ、兄貴、何か軽トラが来ましたよ。何か車の後ろに鎖のようなものを引っ張ってぐるぐる走ってる。何をやってるんですかね」
「馬糞というのは塊になってるだろ、そのままだと分解も遅いし、下の草も生えてこないからああやってばらけさせているんだろう。そこに前のヤツが転がってるだろう。」
「へえ、こいつですか、確かに乾燥して匂いもなく、干し草って感じですね」
「それに俺たちがここの馬糞の塊を持っていけば、あの人の仕事も減る、わずかだがガソリンも節約になる。一石3丁とはこのことだ。」
「ふうん、上手いもんですなあ。あれ、今度はこっちに来たよ。乗ってるのは若い女の子だ。可愛いね、へへ。あ、停まった。兄貴となんか楽しそうに話してるぞ。いいなあ。ココも頭なでられて尻尾振って喜んじゃって。あ、行っちゃった。兄貴、兄貴、何を話してたんですかい。『そこの素敵な御仁はどなた』なんて言ってましたかい」
「言ってねえよ、そんなこと。俺もよあの娘は今まで見たことは何回かあったが話をしたのは初めてでな。日本人ですか、はいそうです、って言ったらよ、お父っつあんはイギリス人、おっ母さんは日本の広島の出だそうだ。もっともここで生まれ育ったから日本語は少しだけだって言うがな。こちらのことも色々聞かれたからスキー関係の仕事をしています。ハットですかと聞かれ、いえいえ主にポーターズとかブロークンリバーなんぞに行ってますと言ったら、驚くことにクラブフィールドのこともよく知ってるじゃねえか。それでこの前のオープンの日のことでひとしきり話して盛り上がったってわけだ。わかったかい、こんちくしょうべらぼうめ」
「なんだい、その最後のこんちくしょうべらぼうめってのは」
「いやよ、あまりに一つの台詞が長かったから勢いでな。まあ後は向こうのパドックのどこそこに行けばもっと馬糞はあるよなんて話をしたのさ。どれ、あらかた馬糞も溜まったことだし、そろそろ帰ろうか。」
「兄貴、こうやって持ってみると案外軽いんですね。土なんかネコ車に一杯にしたら重たくてヨロヨロしちゃうじゃないですか。これぐらいなら楽勝だい。そんでこれを持って帰ってどうするんです?」
「うむ、地面に穴が掘ってあって、そこで堆肥をつくるんだが、今は一つ空いているのでそこに入れてイーエムで分解させようと思ってる」
「へえ、あのドイツの車、あれを使うんですか」
「何を言ってるんだね。そりゃビーエムだろうが」
「さいですか。ああコマーシャルのこと?」
「それはシーエム」
「ダイレクトメール?」
「それはディーエム。いい加減にしろ、全くお前は。イーエムのことを知らんのか?以前のブログにも書いたはずだぞ、何?読んでないって、しょうがないな、探してあげよう。どこだったかな、あれはだいぶ前の話だったな。あった、あったこの話だ。読んでみろ。」
「へえ、なになに、ふむ、ほうほう、それで、ふむ、なるほど、あらかたわかりました。しかしなんですな、これが世のためになるんですかい。」
「なる。それにな、お前が運んでいる馬糞、これも世界を救うのだぞ。それがお前には分からないのか」
「へえ、分からないので教えて下さい。」
「よし教えてやろう。まずはこうやって馬糞を使って土を作る。これが良い土になり、良い野菜ができる。特に大根なんか最高だな。さてここに仮に山田太郎くんという子がいるとしよう。この太郎君、不治の病を患い医者からさじを投げられてしまった。親御さんがたいそう悲しんでな、死ぬ前にしたいことはないのかと聞いたら、ニュージーランドに行きたい。それなら生きているうちにとニュージーランド旅行に行くことになった。ニュージーランドでは世話になったガイドさん、すなわち俺のことだが、そこに食事に招待された。そこでうちの大根を使って料理をしたら、あら不思議、どの医者も見放した病がきれいさっぱり治ってしまった。ありがとうございます、せっかく拾ったこの命、世のため人のために使いますと一生懸命働いて出世した。一度は死を覚悟したくらいだから世の仕組みもよく分かる。今のこの世を牛耳っている支配者とも対決してなんと改心させてしまった。そこからは争いや奪い合いのない世界となり、星子が言っているような地球人70億による地球祭へとなっていくのだ。さあ分かったか、この馬糞がゆくゆくはこの地球を救うのだ。」
「いや、兄貴、突っ込みどころがありすぎてどこからつっこんでいいのか分からねえけど、地球を救うなんて、なんでそんな大きな話になるんですかい?」
「そりゃお前、ウンの話だけに、小さいのはいけねえ」
ドンドドンドン