このお話は、『戦国怪談話』の時に話す予定でしたが、時間の関係でカットした『今昔物語集』に載せられたお話のひとつです。
ある日のこと、一人の男が美濃(岐阜)に向かって旅をしていました。篠原辺りで夕方も近付いた頃に、急に大雨が降りだして、男は慌てて雨宿りができる場所を探したのです。
すると近くに洞穴のような入口があったので、そこに入りました。
男がそこに入ってびっくり、そこは死者を埋葬するために掘られた墓穴(横穴)だったのです。
「墓穴とは気味が悪い、しかし幸いにもまだ死体が入る前のようだし、今夜はここで雨が止むのを待とう」と思った男は、墓穴の奥へと進み入口からは見えない陰の方で横になりました。
陽もすっかり沈み、男がウトウトと眠っていると、外からこちらに向かって走ってくる音が聞こえます。不気味に思って身を縮めていると、蓑を着た男が走り込んできてやはり雨の災難に遭った様子でした。
しばらくして、その穴が墓穴だと気が付き、急に怖がり、奥に向かって「雨が止むまでお世話になります。これはつまらない物ですがお納めください」と飯を供えたのです。
先に入った男は、ちょうど小腹も空いていたのでその飯をさっと取って食べてしまいました。すると入口の男がヒーと悲鳴をあげて「お供え物が消えた!物の怪に違いない!!」と叫び、持ってきた荷物も、落ち着くために脱いだ蓑や笠も置いたままで雨の中を走り一目散に逃げて行ったのです。
「お前が供えておきながら、驚くとはどういうことだろうね」と、残った男は苦笑しながら夜を過ごしました。
朝になり、雨もすっかり止みました。
逃げて行った男が置いていった物を持って、男は旅を続けたのですが、荷物が妙に重かったので開けてみるとそこには高価な反物が何反も入っていたのです。
男は、「さてはあの男は商人だったのか」と納得し、そのまま旅を続けました。
そして、偶には墓穴に泊まるのもいいものだ、今夜も泊ってみるか…と思いながら旅を続けたのです。
このお話には、本当の意味での怖い存在は出てきません。
しかし墓穴という普通ではない舞台ができることで二人の男は違った方向へと進んでしまうのです。
怪談話を幾つか話しましたが、もしかしたら址から入って来た男のように、怖いと思ったために何でもない物が怖い存在に見えた可能性もあるのです。
怪談話は、とっても面白いお話ですが、怖がるのもほどほどがいいかもしれませんね。
では、長く続きました『戦国怪談話』もこれにて一旦閉幕
ある日のこと、一人の男が美濃(岐阜)に向かって旅をしていました。篠原辺りで夕方も近付いた頃に、急に大雨が降りだして、男は慌てて雨宿りができる場所を探したのです。
すると近くに洞穴のような入口があったので、そこに入りました。
男がそこに入ってびっくり、そこは死者を埋葬するために掘られた墓穴(横穴)だったのです。
「墓穴とは気味が悪い、しかし幸いにもまだ死体が入る前のようだし、今夜はここで雨が止むのを待とう」と思った男は、墓穴の奥へと進み入口からは見えない陰の方で横になりました。
陽もすっかり沈み、男がウトウトと眠っていると、外からこちらに向かって走ってくる音が聞こえます。不気味に思って身を縮めていると、蓑を着た男が走り込んできてやはり雨の災難に遭った様子でした。
しばらくして、その穴が墓穴だと気が付き、急に怖がり、奥に向かって「雨が止むまでお世話になります。これはつまらない物ですがお納めください」と飯を供えたのです。
先に入った男は、ちょうど小腹も空いていたのでその飯をさっと取って食べてしまいました。すると入口の男がヒーと悲鳴をあげて「お供え物が消えた!物の怪に違いない!!」と叫び、持ってきた荷物も、落ち着くために脱いだ蓑や笠も置いたままで雨の中を走り一目散に逃げて行ったのです。
「お前が供えておきながら、驚くとはどういうことだろうね」と、残った男は苦笑しながら夜を過ごしました。
朝になり、雨もすっかり止みました。
逃げて行った男が置いていった物を持って、男は旅を続けたのですが、荷物が妙に重かったので開けてみるとそこには高価な反物が何反も入っていたのです。
男は、「さてはあの男は商人だったのか」と納得し、そのまま旅を続けました。
そして、偶には墓穴に泊まるのもいいものだ、今夜も泊ってみるか…と思いながら旅を続けたのです。
このお話には、本当の意味での怖い存在は出てきません。
しかし墓穴という普通ではない舞台ができることで二人の男は違った方向へと進んでしまうのです。
怪談話を幾つか話しましたが、もしかしたら址から入って来た男のように、怖いと思ったために何でもない物が怖い存在に見えた可能性もあるのです。
怪談話は、とっても面白いお話ですが、怖がるのもほどほどがいいかもしれませんね。
では、長く続きました『戦国怪談話』もこれにて一旦閉幕