2022年9月5日(月)
…対照的だったのは「かまれる」だ。近畿と四国東部に集中し、東日本では使われていなかった
「天声人語」本日朝刊より(下記)
わが両親は決まって「かまれる」といい、「蚊はかまないよ」と全国区の息子が茶々を入れるのが、夏の定番のやりとりだった。ところは愛媛県北条市(現松山市)、四国東部ではない、西部である。
これまで聞いた表現で最もインパクトがあったのは「蚊がかじる」というもので、話者は山梨県甲府市の出身だった。
方言は深く広い。さらなる調査を期待する。
Ω
昨夏、この欄で蚊の話題をとりあげた。「蚊にかまれる」と書いたところ、読者から相次いで問い合わせをいただいた。いずれも「かまれる」という言い方は聞いたことがないとのご指摘だった▼山形県内の読者は電話で「私は『蚊にさされる』と言うのですが、これは方言でしょうか」。神奈川県の方からはメールが。「東京で生まれ、東北を転勤し、横浜で半世紀以上を過ごした。『かまれる』という表現は初めて目にした。どの地域で『かむ』というのか知りたい」▼国立国語研究所(東京都)に大西拓一郎教授(59)を訪ねた。蚊に血を吸われる現象をどう表現するか、2009年に全国調査をした。「さされる」という回答は秋田、岐阜、長崎など広域に及んだ。「くわれる」も青森から新潟、愛知、沖縄で確認された▼対照的だったのは「かまれる」だ。近畿と四国東部に集中し、東日本では使われていなかった。「それでも、さされるが標準語の地位にあるとは断定できない状況です」▼〈蚊の居ない夏は山葵(わさび)のつかない鯛(たい)の刺身のやうなもの〉と物理学者の寺田寅彦は書いた。蚊に襲われないと夏を迎えた気がしないそうだ。とてもそんな境地にはなれないが、それにしても今夏は蚊の襲来が少なかった気がする。猛暑続きで蚊も夏バテに参っていたのだろうか▼と思いきや、暑さが和らいできたとたん、連中が猛攻を再開した。チクッ、かゆい。またやられた。あれれ、蚊には「さされる」? 「かまれる」だったっけ?