散日拾遺

日々の雑感、読書記録、自由連想その他いろいろ。
コメント歓迎、ただし仕事関連のお問い合わせには対応していません。

機影に虹の環

2022-03-30 15:33:37 | 日記
2022年3月21日(月・祝)

 帰路、久しぶりに航空会社を変えてみた。そのためかどうか、新鮮な経験が多々あった中でもこれは特筆。


 自分の乗った飛行機の影が雲に映り、それを虹の環が取り囲んでいる。松山発・羽田行きの搭乗機はこの瞬間、西へ向かって飛んでいる理屈である。いったん東へ過ぎ、反転して高度を下げる鴨川上空あたりらしい。吉兆かその逆か、もちろん初めての経験ながら、虹を見た後には決まって身の上に変化が起きた。

 今次帰省中、父の従弟が田舎家に立ち寄った。航空自衛隊で長年戦闘機に乗っていた人である。庭先の茶のみ話の中で「三次元失見当」という現象があるのだと教わった。平たく言えばどちらが天か地かわからなくなるということで、夜間飛行の時など空の星々と海の漁り火を誤認することが起きるらしい。これを想定して地上の訓練を行うものの、対応しきれない事態はいくらも起きる。さぞ怖いだろう。
 1月31日に墜落したF15は午後5時半に離陸直後の遭難と伝えられたが、冬の夕暮れ時に何があったのか。身内の彼も45年前には同じ小松基地に配属され、ソ連機を相手にスクランブルを繰返す日常だった。
 「しんどかったでしょうね」
 「普通の仕事でしたけん」
 ほんの数時間、一緒に過ごしたある日のことを、先方もよく覚えていてくれて驚いた。

 「次は一緒に釣りにいきましょう、伊豫の鯛を釣りに」
 鯛の引きはすこぶる強い。おめおめ釣られてくれるだろうか。

Ω

ぬいぐるみの効用

2022-03-27 07:20:02 | 日記
2022年3月27日(日)
 SNSで拡散するのに相応しくその想定で配信されたものだと思うが、申し訳ないけれど当方が対応できていない。なので核心部分を転記する。昭和の流儀。

 愛着形成において、また愛着の確認において、皮膚感覚が比類なく重要であるといった発達心理学の教訓は、こうしたぬいぐるみの効用を裏づけるために想起すべきものだ。
 子どもだけではない、おとなもまた抱きしめる対象が必要であると言いたい。さらなる効用もありはしないか。ぬいぐるみを抱きしめる行為と、銃撃し砲弾を放つ行為とは、根本的に両立しないもののように思われる。
 兵士たちに、ぬいぐるみを支給したらどうだろう?あるいは世界中からプーチン氏にぬいぐるみを届けたら?

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“1秒に1人”増える子どもの避難民 ぎゅっと抱きしめる“ぬいぐるみ”の意味【SHARE#4】
JNN/TBS 2022年3月26日 (土) 14:17
https://news.yahoo.co.jp/articles/e51ac83df35267c127bde176cc9fb68fa3ae19d7

■ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる子どもたち

ーー過酷な状況下で大人でも余裕がない中、感情をうまく表現できない子どもたちに特化した支援はあるのでしょうか?

西村匡史記者:
 ボランティア団体が子どもにぬいぐるみやおもちゃを配っています。避難所や、駅のターミナルやホームでも配っていました。これには大きな理由があります。

 子どもたちは大切なぬいぐるみやおもちゃを家に置いてきてるんですね。彼らは自分にとっての宝物を置いて、わけもわからず移動してきています。とても不安な状況ですが、お母さんも大変なので子どもへのケアがなかなか行き届かず、自分の中に不安をため込んでいる子どもが多いです。

 ボランティア団体の方によると、子どもは不安を抱えているとき、何か常に身につけて抱っこしたいと思うそうです。人肌に触れることが難しい環境になっているので、せめてぬいぐるみを抱えることで安心を感じてほしい、そういった想いでぬいぐるみを配っているそうです。

 実際に、ぬいぐるみを配ってるところでは、避難所でも駅でも子どもたちが殺到して、目を輝かせているんですね。避難所の中に入ると、夜になると、ぬいぐるみを抱いて眠る子どもたちの姿を多く見ましたし、また話し相手がいないので、ぬいぐるみと一緒にままごとをしてお話をしてる子もたくさんいました。

福井美穂さん:
 私も、ボランティアの方たちがぬいぐるみをたくさん渡しているところを見ました。そんななかで、ある子どもが「家に帰ればあるので、いりません」って言って、ボランティアの方たちがそれを聞いて、胸を押さえるっていうようなシーンもありました。

 もしかすると帰れないかもしれないとは当然言えないです。でも、ぬいぐるみを無理強いして渡すこともできなくて。いろんな状況で、いろんな気持ちを抱えている子どもたちがいるということを心にとめて支援していかなくてはいけないと思いました。

Ω

レンズ豆

2022-03-24 19:25:12 | 日記
2022年3月24日(木)

  ヤコブはエサウにパンとレンズ豆の煮物を与えた。エサウは飲み食いしたあげくに立ち、去って行った。こうしてエサウは、長子の権利を軽んじた。
『創世記』25:34

 私の荷物は重さが50キロ以上もあり、朝出発するときには背負うのに誰かに手伝ってもらわなければならなかった。食料は携帯用非常食とレンズ豆だけで、島の北端から南端まで別行動で往復した私たち12名は、食糧不足に大いに悩まされた。空腹をしのぐのに苔類を煮て食べられないか実験したのを、今でもよく覚えている。
ロアルド・ダール『少年』P.221

 レンズ豆とはどんな豆だろう?族長時代のユダヤ人が食べたのと20世紀のイギリス人が食べたのと、同じものか違うものか?くたびれ果てた狩人エサウと、ニューファウンドランド島を徒歩で縦断する少年たち、いずれ劣らぬ獰猛な食欲を支える栄養価をこの豆がもったということ?

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… レンズ豆 Lens culinaris とは、マメ科ヒラマメ属の植物の実の部分のことです。
 日本では扁豆(ヒラマメ)、英語ではレンティル(lentil)といい、原産はメソポタミア地域です。主に皮付きの褐色をしている茶レンズ豆(ブラウンレンティル)と、皮なしの赤橙色をしている赤レンズ豆(レッドレンティル)の2種類です。
 インド、ネパール、イタリア、フランスなど海外では、ごく一般的に使われており、栄養価が高いことからベジタリアンやヴィーガンの人たちからも人気があります。
 ちなみにカメラのレンズなど、光学用途で使われる「レンズ」という言葉は、レンズ豆からとったもの。凸レンズがレンズ豆の形に似ていることから名付けられたといいます…

● 魅力1:世界五大健康食品のひとつ(インドのレンズ豆、日本の大豆、韓国のキムチ、スペインのオリーブ油、ギリシアのヨーグルト、だそうな。)
● 魅力2:栄養豊富でグルテンフリー
● 魅力3:低カロリー、高ビタミン
● 魅力4:さまざまな料理に使えて長期保存可能
● 魅力5:水戻し不要な時短食材


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 レンズマメは、人類が利用してきたマメの中で最古の部類に属する。肥沃な三日月地帯で栽培が始まり、ヒヨコマメやソラマメと並んで重要な食物となった。
 旧約聖書創世記にも登場し、エサウは狩猟に失敗して飢えていた際に、弟ヤコブにレンズマメの煮物を食べさせてもらう代償に、その長子権を譲ったとされる。また、エジプトの紀元前2000年紀の墳墓におさめられたレンズマメが発掘されている。
 古代ローマではソラマメが好んて食べられ、レンズマメは避けられた。ただし、人類最古の料理書ともいわれる『アピシウス』にはレンズマメのメニューも掲載されている。レンズマメが避けられる傾向は中世ヨーロッパにおいても続いた。
Wikipedia
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 なるほど恐れ入りました。しかしこれほど良いものでありながら、古代ローマや中世ヨーロッパの人びとが、ナゼことさら避けたのかは記載にない。日本でも栽培できるのか気になるところだが、まずは食べてみるところから始めるか。

Ω


戦場の真実

2022-03-04 07:18:39 | 日記
2022年3月4日(金)
 
 ウクライナで戦死したロシア兵がスマートフォンに残したというやりとりが、国連総会で紹介された。どうして返事をくれないの、本当に訓練中なの、という母親の問いに兵士が返信している。
 「ママ、訓練じゃないんだ。本当の戦争が起きている、怖いよ」
 「ぼくたちは町中を爆撃している。民間人まで標的にしている。歓迎されると聞かされていたのに」
 ウクライナの大使が読み上げたこの内容が本当なら、戦場の真実を最もよく伝えているのかもしれない。
「天声人語」2022年3月4日

 このやりとりが事実かどうか、疑う余地は多分にある。しかし、それが戦場の真実を伝えていることは疑う余地がない。

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 これが偶然の不思議というもので、同じ日の小説欄から:

 「第二次世界大戦でロシアがどんな国よりたくさんの死者を出したことはご存じですか」
 とMさんが急に話題を変えて、きびきびとした調子で言った。そんなことはありえない、原子爆弾を落とされた国の方がたくさん犠牲者を出しているに決まっている、とわたしは内心思ったが自信はないので黙っていた。後で調べてみよう。Mさんは目尻に皺を寄せてやさしく言った。
 「わたしの言うことを信じていませんね。それはいいことです。人の言うことをすぐに信じないで自分で調べてみることが大切です。わたしは記憶違いが多い。でもこの数字には自信があります。わたしにとっては、どうでもいい数字ではないので」
多和田葉子『白鶴亮翅』31

 僕も最近は記憶違いが多いが、Mさん同様この数字には自信がある。
 小学校で使っていた社会科地図帳の巻末資料に、第二次世界大戦における各国の死者の比較グラフがあった。

 日本 … 300万人超
 ドイツ … 500万人超
 ソ連 …1000万人超(詳細不明)

 子どもながら目を見張った。

 註が要る。1000万人あるいは2000万人超ともいわれる犠牲者のすべてが「ロシア人」だったわけではない。当時のソ連人全体の犠牲者数である。その中にはロシア人ばかりでなく、当然ながら夥しい数のウクライナ人やベラルーシ人が含まれていた。あるいはロシア人単独でも「最多」だったかもしれないが、1991年までそのことは主要な問題ではなかった。

Ω