散日拾遺

日々の雑感、読書記録、自由連想その他いろいろ。
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水戸で遠望する東方のイースター

2022-04-25 11:32:00 | 日記
2022年4月23日(土)

 蘭石という言葉があり、これを名にもつ人がいる。出席をとっていて、おもわず「カッコいい名前だねぇ!」と叫んだ。

 蘭の香気と、石の堅質。美質。「淵、生まれながらにして蘭石の姿有り。少(わか)くして愷悌(がいてい)の訓を含む。」〔三国志、魏、公孫淵伝 〕
(コトバンク)

 彼を含む20名ほどの受講者の熱心にこちらも昂揚したものか、夕方学習センターを出てバス停へ向かう脚が、そのまま水戸駅に向けて歩き出していた。5kmほどもあったろうか、大した距離ではないが、まもなく空きっ腹が音高く鳴り出し、路傍にへたり込みそうになった。
 ふと見あげると、「前橋144km」と道路標識が告げている。前橋?
 5歳から8歳までを過ごした故地だが、頭の中の地図で水戸とつながる線がない。後で調べて、両市がほぼ同緯度、つまり地図上では水平に並ぶことに初めて気づいた。前橋:北緯36度23分、水戸:北緯36度22分。日没後の「ひたち」でこんなにも北へ運ばれていたのか。
 「空腹で山を歩いていると、もうダメだと何度も思う、その後に体の奥からもう一段の力が出てくるものだ」と北杜夫が書いていたのを、ここで思い出すのも大げさな話だが、低血糖症状とおぼしき無用の汗をずいぶんかいた。
 水戸駅北口に向かって坂を下り始めるあたりで蕎麦の看板あり。日中、センターの職員一同に水戸名物を訊ねたら、顔を見合わせてしばらく返答なく、やがて「納豆ですね、やっぱり」、それから「蕎麦は美味しいですよ、あまり知られてませんけど」と。決まりだ。


 開店早々、店内は大将とおかみさんと女の子の三人だけである。「いらっしゃいませ」と声が駆け寄ってきて検温装置の電源が入った。さて何を食べようか…
 「よそから来た者なんで、水戸らしいものをいただきたいんだけど」
 「はい?」
 「いえね、よそから来てるんで、帰ってから『水戸でこんなの食べた』って自慢できるものをいただきたいんですよ」
 三度繰り返し、ようやく大将の無骨な頬に笑みが浮かんだ。こんなことを他の客は訊かないものだろうか?

上天納豆蕎麦

自家製の牛スジ(今週はこれで終りだそうな)

タラの芽!地酒は「日々是好日」

 ああ美味しかった、これで「水戸は美味しかった」と威張って話せる。

2022年4月24日(日)
 ホテルの朝食バイキング、納豆の食べ比べは名案だが、西の舌には少々塩が濃い。TVではウクライナの風景、今日が同地のイースターと告げている。やっぱりそうか、17日(日)が満月なら、イースターはもう一週先ではないかと先週訝った通り、解釈の違いがあり得るのである。プーチンはモスクワで礼拝に出た。
 正教会は東欧からロシアにかけて東方の広大な領域に分布するが、カトリックと違って国を超えた普遍組織をもたない。ウクライナはウクライナ正教会、ロシアはロシア正教会。それぞれがそれぞれの国家の勝利ばかりを祈るとしたら、宗教に何のとるところがあるか。プロテスタントも同じことだ。
 蘭石君が「うなぎ」を勧めてくれたが、残念ながらそのメモを読んだのは帰りの「ときわ」車内である。水戸でうなぎを食べる機会が今後あるかどうか。
 ウクライナに平和なイースターが訪れたら、記念に戻ってくるとしよう。

Ω

イースターの朝早く

2022-04-17 08:31:52 | 日記
2022年4月17日(日)
 就寝前、夜の外がひどく明るいのに気づいた。中天にかかろうとする月が、わずかに頬の膨らみの足りない丸顔で地上を煌々と照らしている。
 ということは、今日17日が満月?

 In 725, Bede succinctly wrote, "The Sunday following the full Moon which falls on or after the equinox will give the lawful Easter." 

 今年の春分は3月21日で、18日に満月を迎えたばかりだった。"the full Moon which falls on or after the equinox" が4月17日だとすれば、"the Sunday following" はもう一週先ということにならないか?
 しかし、話には続きがあって…

 However, this does not precisely reflect the ecclesiastical rules. The full moon referred to (called the Paschal full moon) is not an astronomical full moon, but the 14th day of a lunar month. 
同上

 太陽暦と太陰暦の間(あわい)に定められる目眩のツボ。陰と陽、死と生の交わるところに、有限から無限へ飛躍の穴が穿たれる。

 今日が今年のイースター

Ω

桃と桜と菜の花と

2022-04-14 20:39:38 | 日記
2022年4月14日(木)

 昨年隠退して四国に移られたN先生より:

> K市の山の中に 桜と 桃と 菜の花 が同時に見られる場所がありました。
> これから毎年桜の季節が楽しみになりました。




 そう、桃の花を植えたいのだ。白と緋色が一つの樹、同じ枝枝に賑やかに咲き誇る源平の桃を。
 わざわざ植えずとも四国の山野にはこのような春があって、分け隔てなしに訪う人をもてなしてくれる。それでも植えたい理由(わけ)がある。白と緋色の咲き競う桃を、わが家の軒先の目に見えるところに。

Ω

受難週の来信

2022-04-10 00:00:01 | 日記
2022年4月10日(日)

Fさんより来信:
> 受難週、水野源三さんの詩が心に刺さります。
> ご存じかもしれませんが、どうぞご覧ください。


※ 水野源三(1937-1984)
 長野県に生まれる。9歳の時、赤痢の高熱によって脳性麻痺を起こし、目と耳の機能以外のすべてを失った。話すことも書くこともできなくなったが、母親が何とか意思疎通をしようと五十音表を指で指し示したところ、目の動きで応答した。これが47歳で死去するまで彼の唯一のコミュニケーション方法となった。「瞬きの詩人」と呼ばれるのはそのためである。
 病気になってから4年め、12才の時、町の教会の牧師が訪れ、聖書を置いていった。母にその頁をめくってもらい、丹念に読んだ源三は、やがてクリスチャンとなる。18歳で詩作に目ざめ、多くの作品を生み出した。
Wikipediaより
Ω

サクラ自慢

2022-04-03 06:58:07 | 日記
2022年3月14日(月)

 ソメイヨシノばかりがサクラではない、バラ科サクラ亜科サクラ属には実に多様な種があり品種がある…などと知ったかぶりはヤメにして、わが茅屋の庭に自生する別種のサクラを親バカ気分で紹介しておく。
 
 

 ソメイヨシノは樹木全体を一様に桜色の花弁が覆い、それが魅力の一つでもあろう。こちらは枝先に房状に開花し、これはこれで可愛らしい。無数のぼんぼりが灯ったようでもある。一見、花房がむくむくして八重か何かのように見えるが、そうではない。


 この通り個々の花は五弁である。ただ、たくさんの雄蕊が白く長く密生して花弁を覆い隠すほどに伸び、それがぬいぐるみの毛羽立ちのような輪郭をつくり出している。
 この時期にはスズメやらヒヨドリやら大小の鳥が訪れては、しきりについばむ仕草をする。花の何を食べているのかよく見えないが、この雄蕊ではあるまいかと思っている。
 庭のサクラのもう一つの自慢は、ひと月余り後にはたくさんのサクランボを実らすことである。小粒だが自然な甘みは市販のものに引けをとらない。収穫できれば立派に食卓を飾れるだろうが、ここでも手強いライバルは鳥たちである。食べ頃を知っているうえ朝の出足が早いから、おこぼれにあずかるのが精一杯である。

 「空の鳥を見よ、まくことも、刈ることもせず、倉に取りいれることもしない。それだのに、あなたがたの天の父は彼らを養っていてくださる。」
(マタイ 6:26)

 宜(むべ)なるかな、そしてサクランボに関する限り、こちらもまた撒きもしなければ刈りもしない。ただ養われること、空の鳥と同じである。

Ω