Dutch Life 備忘録

オランダのミュージアム、コンサート、レストランなどについて記録するノート。日常的な雑記も…。

本「苦海浄土」

2015-01-21 09:32:52 | Book
石牟礼道子著「苦海浄土」を読了。
1969年の作品ですが、2004年に発行された講談社文庫の新装版で読みました。
「わが水俣病」という副題がついているとおり、水俣病を扱った作品です。
水俣の近くで詩歌を詠む文学好きの主婦だった著者が、地元で起こったこの悲惨な病に衝撃を受け、近くで見て、話を聞き、独自の文学にまとめあげたものです。ノンフィクションといえば事実に沿って書かれておりノンフィクションですが、病気になった人が心のうちを吐露する場面は作者の心も耳で聞いた部分があるようです。そのことについては「解説 石牟礼道子の世界」という文章がこの文庫には収められており、作者が方言を駆使して、水俣病患者たちの海や漁業に対する愛情を表現し、それを無残に毒の海に変えてしまった大企業そして産業社会の大きな論理を告発しています。この本が「聞き書き」のルポルタージュだと思われているようだが、そうではないということも、この文章の中に書かれていました。
水俣病については、映像のドキュメンタリーや写真などで見たことがありましたが、その凄まじい病の悲惨さについては、この本でより明らかに心に響きました。作者が病によってものが言えぬ患者のことばを文学的手法で再現しているのです。
作者の文学的言い回しが、ときおり私には読み辛いこともありましたが、絡みつくような文章が魂の叫びというか、囚われたくないものに囚われてしまった身動きのできない凪のような雰囲気を感じさせ、この本の独自さを増しているように思います。
大企業のチッソが君臨し、以前はこの会社が自慢でもあった小さな地方の町で、奇病が発生し、原因は海の魚介類だということが明白なのに、原因究明はなかなかすすまず、熊大が原因を有機水銀と発表した後も、汚染元のチッソは理由をつけて有機水銀を垂れ流し、政府の対応も遅れ、賠償も何もよくわからない初期にこれ以上は補償を要求しませんという文句がついた証文に捺印するのを条件に死亡の場合大人10万円、子ども3万円という少額で手を打たされ、胎児性水俣病についても異常な数の脳性まひ的症状をもつ子どもがこの地域で生まれているのに、その子どもの一人が亡くなって解剖で水銀が検出されるまで水俣病とは認められず何も補償はなく、病気なった人々そして家族がどんなに貧しく、肩身の狭い思いをして過ごさなければならなかったのか、こういうことが全体的に読んでわかるのはやはりこういう本でなくてはだめだなあと思いました。映像や写真で訴えられるものもあるけれど、文章でなくては伝わらないものもあるのです。
大企業の論理、利益優先の論理、政府の対応の悪さ、取り残され苦しむ個人という構図は、前世紀から繰り返されています。
「苦海浄土」には第二部「神々の村」、第三部「天の魚」があります。これらが手軽に手に入るように文庫化してほしいです。
体調は良好です。オランダは氷点下前後の気温で外は寒いです。