20階の窓辺から

児童文学作家 加藤純子のblog
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『かくれ森の木』(小峰書店刊)

2008年10月14日 | Weblog
 児文芸の友人である、広瀬寿子さんから新刊をご恵贈いただきました。
『かくれ森の木』(小峰書店刊)です。
 忙しさのため、なかなかこちらでご紹介できずにおりました。
 
 広瀬寿子さんは、ご存じのように今年度の産経児童出版文化賞の大賞を受賞された方です。また赤い鳥文学賞など、さまざまな賞を受賞されている実力派の作家です。
 この『かくれ森の木』の舞台は、かつて広瀬さんが疎開していた村だそうです。
 この物語に出てくる、その村に暮らす人々がどれも、実にいいのです。リアリティがあるのです。
 特に「おばあちゃん」が。
 お産婆さんをしながら「直子」を育てている「おばあちゃん」の生きざまのすごさと人間としての小気味いいほどの潔さには、こころがふるえます。
 なんで、広瀬さんは、こんなふうに寡黙でありながら、きちんと「ひと」を、生きている人間たちを書けるのかしらと。
 とくに、直子とおばあちゃんが借家をしている母屋の「八重おばちゃん」が出産で、赤ちゃんとあの世に言ってしまったシーンに続く赤ちゃんの姉である、直子の親友の「ももちゃん」と直子が、死んだ八重おばさんと話しに墓前をたずねるシーン。後日、そのことをももちゃんのお父さんに責められ、おばあちゃんと話すあたりのシーンは圧巻です。
 おばあちゃん像と、そのおばあちゃんに対する孫である直子の思いの深さを、広瀬さんは逃げることなく、力強く、そして叙情的な文体で描き上げています。
 広瀬さんはどうして、あのように繊細で、美しく、人びとのこころをゆさぶる、嘘のない文章が書けるのでしょう。
 広瀬寿子さんの筆力に圧倒され、読ませられ、感動し、本を閉じるときは完全に打ちのめされていました。
 いま、これだけ「人間」をきちんと書ける人が、児童文学の世界にどれだけいるでしょうか。
 地味な作品ではありますが、ここには確実に人間が息づいているすがたがあります。胸に迫ってきます。
 
 皆さま、ぜひご一読下さいませ。
コメント
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