20階の窓辺から

児童文学作家 加藤純子のblog
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『あなたを探して』(マルク・レヴィ著・PHP研究所刊)

2009年03月18日 | Weblog
 今夜は隔月ごとに親しい友人たちと、神楽坂の児文協事務局をお借りしてやっている研究会です。
 今月のテキストは『あなたを探して』(PHP研究所刊)です。
 久しぶりに泣けた本でした。

 子どものころから恋人同士だったスーザンとフィリップは、生まれた環境やなにやらからくる人生観の違いで、大人になってから生き方が大きくかけ離れていきます。
 ニューヨーカーとして、バリバリと仕事をこなし、認められるセクションにつきたがるフィリップと、人道支援の平和部隊に入って、長期にホンジュラスへと飛び立っていったスーザン。
 ふたりは手紙を交換しながら、ふたりの愛を確認しあい別々に生きていきます。けれど時は、いえ、それぞれの人生の根幹を見つめる価値観は、残酷にもふたりの気持ちを引き離していきます。

 エキセントリックなまでに、自分のこだわりに固執するスーザン。そのスーザンは、だれの子どもかわからない女の子を出産します。
 数年が過ぎ、その子どもがある日「母親が死んだから」と、スーザンの遺言をだずさえて、フィリップを訪ねてきます。フィリップとメアリ夫妻は、その子「リサ」を養女として向かい入れます。

 そこから向き合う「家族」としてのさまざまなつながりや葛藤を経て、スーザンの生んだ私生児「リサ」は、ある日、養母であるメアリにこう問いつめます。

「あなたは、あたしにとって何?」
 メアリは一瞬ためらって、こう答えます。
「わたしはあなたのパラドックスよ」
(注: パラドックス・・・一見、矛盾しているように見える正論)
 メアリは、リサにパラドックスの意味を、さらにこういいます。
「わたしはあなたの母親にはなれないけれど、あなたは永遠にわたしの娘だってことよ」

 きっと、いまの時代だったら、スーザンのようなエキセントリックに自己主張しながら、他者との関係性に生き悩む、不器用な人間のひりひりした感情の描出に、作家は心血を注ぎたくなるような気がします。
 それが「生きにくい現代」のテーマとでもいいたげに。(もちろん、そういったこともしっかり書かれていますが)
 でも、この作家の軸足は違います。
 ある意味、とてもわかりやすく凡庸で、けれど限りなく知的で根気強い女性。
 そこに軸足をおいて、描いているのです。
 そこを生き抜く強さ、たいへんさを、きちっと引き受けながら。
 そのことに、限りなく感動します。
 この「気持ちよさ」が、この作品をベストセラーに仕立てあげている所以なのかもしれません。
コメント (2)
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