20階の窓辺から

児童文学作家 加藤純子のblog
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『山からの伝言』(最上一平著 新日本出版社刊)

2009年03月31日 | Weblog
 かれこれ30年来の友人である作家の最上一平さんの新刊が出版されました。
『山からの伝言』(新日本出版社刊)です。
 
 昭和34年ころの、たった35軒の小さな集落に暮らす大人や子どもたちの姿がここには描かれています。。
 山と山の谷間にある、この集落ではその土地柄から田んぼを持っている人があまりいません。ですから食べることもままなりません。
 夜明けから深夜まで働いても、貧しく、自分の田んぼを持ちたいという思いは、ずっと村人たちの願いでした。
 その願いを実現させるべく、村人たちは開田工事と用水路工事を行うことになります。
 その開田工事と用水路工事を物語の横軸に、村の子どもたちや、大人たちの生きる姿を縦軸に、物語は展開されていきます。
 
「相変わらず、ぼたん雪がのしのしふっていた。そして、ことんと幕がおりたように夜の暗さがやってきた。だれもが冷たくて泣きたかったし、家に帰りたかった。けれどいったん動き出した一本の列は、それが生き物のようになり、止まることができなかった。」

 これは、分校へ帰ってくるはずの、音楽の宮本先生の帰りが遅くて心配になった子どもたちが、夕暮れの闇が落ちかけている山道を歩いているシーンです。こうした鮮やかな描写が、この作品には満載されています。
 最上一平という作家のすごさは、こうした表現へのこだわりと、ひとつひとつのシーンの瑞々しく鮮やかな描写力です。

 そういえば、文芸評論家の斉藤美奈子が、こんなことを書いていました。
「お話の内容、すなわち何を描くか(WHAT)に力点があるのがエンターテインメント系。表現の仕方、すなわち(HOW)に力点があるのが純文学系。起承転結すべてがそろっているのがエンタメ系で、起承転結にこだわらない。または起承転結を壊すのが純文学。逆にいうと、エンタメ系の小説は(ワケがわかりすぎる)。もっと、ぶちまけよ」と。
 
 最上一平はこの「山からの伝言」で、貧困や、労働をぶちまけています。いままでになかったくらいの激しさで、彼は子どもたちを巻き込み、働くということを、目をそらせずに語っています。

「軽口をたたき、冗談をいい、笑いあい、なんと明るいことか。よく働くことか。山やまはますます緑濃く、新鮮な風をおくってくる。」

 貧しさや、働く楽しさ、苦しさをこの物語で、最上一平は力の限り、ぶちまけています。
 ぜひ、お読みになってください。
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