20階の窓辺から

児童文学作家 加藤純子のblog
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『合い言葉はかぶとむし』(宇佐美牧子著 ポプラ社刊)

2009年08月01日 | Weblog
 創作教室の受講生で、いまは「季節風」の作家・宇佐美牧子さんのデビュー作です。
 大人びた友だちと、それに追いついていけない少女。 
 そんな五年生の少女の気持ちを、瑞々しく、まぶしく描いている作品です。

「ほんとは、かぶとむしが好き」 
 でも、友だちとの話題は、おしゃれの話や、好きな男の子の話。
 主人公のルミは、そんな自分の本音をなかなか出せません。
 そういった話についていけない自分は、どこかみんなと違うのかも知れないと。
 でも幼なじみの克哉は、あのころのままです。
 そんな少女のゆれ動く気持ちを、丁寧にすくい取りながら物語は進んでいきます。
 とうとう、自分の本音を言わないルミから、大人っぽい友だちの洋子たちは離れていこうとします。
 そのあとのシーンが、印象に残ります。
 
「わたしはどうしたいんだろう?」 
 さっきからむねの中で回りつづける言葉を、その上にはきだしてみた。
 声は波にのみこまれていく。
 その中で金魚は、まいごみたいにユラユラとゆれていた。

 この金魚と少女の表情を重ね合わせている絵と、そこにそえられている文章。
 ステキです。
 さて、ラスト、少女たちの関係はいったいどうなっていくのでしょう。
 大きな物語があるわけではないのに、心に残る作品です。
 ルミや少年たちがとても初々しく、彼らの思いのひとつひとつに実感がこもっています。
 皆さま、どうぞお読みになってください。
コメント
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