ペンギン夫婦の山と旅

住み慣れた大和「氷」山の日常から、時には海外まで飛び出すペンギン夫婦の山と旅の日記です

私たちの富士登山(5)

2013-07-11 20:19:19 | 四方山話

富士山頂の夜明け。真っ暗な中を登ってきた大勢の人々が、祈るように次第に明るむ東の空を見つめています。

『紫紺の空に金粉を散りばめその中心に真紅の大円が静かに姿を現してくる。今ここにある幸せを何者かに感謝したくなる荘厳な一瞬。(1986.07.29 AM04:48)』どよめき、歓声のうちに期せずして「バンザイ」が起こりました。


再び、山頂奥宮に手を合わせてお鉢巡りに出発します。富士山の形はよく「擂り鉢を伏せたような」と表現されますが、その底の部分にあたる頂上部は大きな窪地になっています。この旧噴火口を大内院(御内陣またはお鉢)といい、古くから周囲約3kmの縁を回る「お鉢巡り」が行者や富士講の信者によって行われてきました。蓮華八葉に例えられる大小の峰にはそれぞれ神仏が祀られ(明治の廃仏毀釈後は神のみ)、それを巡拝することが富士登山の大きな目的だったのです。写真は南西隅にあたる剣ヶ峰方面からの大内院です。


お鉢巡りは時計回りに行います。奥宮から西に向かうとやや広い台地になります。左手、富士館の裏手にあたるところに近年、バイオ式・燃焼式併用トイレができました。その右手には「このしろ池」があります。この池は左の三島岳などに積もった雪が融けて地面を潜って再び湧き出した池で、形が魚の鮗(コハダ)に似ていると言われます。(2012.09.15)


この池には「コノハナサクヤヒメに求婚した風神を、(死人を焼く匂いがする)コノシロを焼いて諦めさせた」とか「龍神が棲んでいる」等の伝説があります。そう聞くと何となく神秘的な感じがします。(2008.10.03)





三島岳の下を通ります。


大内院を見下ろしたところ。夏早い時期で残雪がたくさん見えます。(1986.07.29)


虎岩。平安時代の文章博士・都良香の「富士山記」に『池の中に大いなる石あり。石の体驚奇にして宛も蹲る虎の如し』とあります。当時は鮗池の中にあったのでしょうか。


ゆったりした感じの三島岳を過ぎると直角に右に折れる感じで、いよいよ剣ヶ峰への最後の難所・馬の背の急登になります。この写真からも傾斜の強さがよく分かります。


こうして見るとあまり傾斜があるように見えませんが、砂礫の急斜面の登りは滑り落ちそうでかなり厳しく、一歩一歩を踏みしめながら登ります。「三歩進んで二歩戻る」状態の人も見かけます。私も時には左の防護柵を頼ることがあります。


ようやく急坂が終わります。左の建物が「旧」富士山頂測候所。現在の名称は「富士山特別地域気象観測所」


かって、ここには純白のレーダードームがありました。毎年、日本列島を襲う台風を事前に予測するために、日本一の高所に当時最新鋭のレーダーが設置されたのです。気象庁職員、建設会社、富士山強力、ブルドーザーやヘリコプターで資材運搬にあたった人々…1964年にドームが完成するまでの多くの人々の労苦は新田次郎の小説「富士山頂」や、石原裕次郎監督・主演の映画にもなりました。しかし、この写真を撮ったとき(2001.07.17)、すでにレーダーは役割を終えていました。気象観測の中心は人工衛星に変わり、1999年11月にレーダーは引退したのです。


上の写真を撮った次の年、2002年の山日記には『これまで見慣れたレーダードームの撤去された富士山頂。汚れた台座や構造物だけが取り残されて、まるで廃墟…』の姿に変り果てたことを嘆いています。更に2004年、富士山測候所は無人化されて今は気温・気圧・湿度だけ自動観測が行われています。この写真は2003年9月3日のものですが、測候所の標識の横に当日の気象状況が掲示されています。

 

これは2002年の写真ですが、登山者にはありがたい情報だった風向、風速は現在の自動観測では対象になっていません。


測候所の建物の前が剣ヶ峰。「日本最高峰富士山剣ヶ峰」の碑が立っています。


その右の三角点標石は2002年に新しくなりました。その年の4月1日から位置基準が日本測地系から世界測地系に変更され、緯度経度が変わったためです。


実際の日本最高点(3,776m)は、上の三角点から数メートル左奥に離れた絶壁の上です。赤いペンキのマークがあり、なぜか溶岩の隙間に硬貨が散らばっています。下を覗きこむと足が竦むようで思わず腰を下ろしました。

 

さらに山頂の一番奥には電子基準点が設置されています。国土地理院の発表では『ピラーの高さは3mあり、電子基準点の標高(アンテナ底面)は3777.5m』でここが正式な日本最高点ということになります。『なお、これにより一般に知られている富士山の標高3776mを変更することはありません。』




この向かい側、測候所建物横左手には展望台があり、2008年にはここで大展望を楽しめましたが、2011年にはロープが厳重に張り巡らされて登れなくなっていました。写真は南アルプス方面を見たところです。なお、電子基準点の写真で見える北側の柵の先には鉄梯子がかかっていて、お鉢巡りの道に下りることができたのですが、かなり以前から測候所の下へ引き返すようになっています。