庭戸を出でずして(Nature seldom hurries)

日々の出来事や思いつきを書き連ねています。訳文は基本的に管理人の拙訳。好みの選択は記事カテゴリーからどうぞ。

デルスー・ウザーラ アルセーニェフ 長谷川四郎訳

2007-07-24 10:37:38 | 拾い読み
・夕暮れ近く空がまた雨雲で覆われた。私は雨になるかと案じたが、デルスーはこれは雨雲ではなく霧で、明日は晴れるばかりか、暑い一日になるだろうといった。彼の予言が当たることを知っていたので、その理由についてたずねてみた。
「わし、こう、見て、思う・・・空気、軽くて、重くない」ゴリド人は息をして、自分の胸を指差した。
 彼はすっかり自然と一緒に生活していて、自分の身体そのもので天気の変化を予感できたのである。さらに彼にはこのための第六感が備わっているようだった。p98

・デルスーは他の連中より早く起きて茶を沸かしはじめた。この時、太陽が昇りかけてきた。まるで生き物の用に太陽は水の中から少し顔を出してみて、それから水平線を離れ、空へとよじ登りだした。
「なんて美しいんだ!」私は感嘆した。
「あれ、いちばんえらい人」デルスーが太陽を指差して、答えた。「あれ、死ぬと、みんな死ぬ」
 彼はしばらく待って、また話し始めた。
「陸も人。陸の頭≠゙こう(彼は北東を指した)。足≠゙こう(彼は南東を指した)。火も水も、二人の強い人。火と水、死ぬと、その時。みんないっぺんに終わり」
 これらの単純な言葉には多くのアニミズムがあったが、多くの思想もまた含まれていた。p117 

・デルスーの墓、とける雪、とんで日没には死ぬだろうチョウ、さらさら音たてる川、いかめしい静かな森≠キべては語っていた$竭ホ的な死は存在しない。相対的な死があるだけだ。そして地上における生の法則が同時にまた死の法則である、と。p412

・(町の近くの森に薪をとりに行ったことで警察に連行された)この事件は彼に強い印象をきざみこんだ。彼は理解した。町では自分の欲するようにではなく、他人の欲するように生きなくてはならない、と。

・次の小さな事件が決定的に彼の心の平衡をかき乱してしまった。彼は私が水に金を払うのを見たのである。
「なに!」またもや彼は叫んだ。「水にも金がいるか。河をみろ。(彼はアムール川を指差した)水、たくさんある。どうして、また・・・」p408

・この野獣狩りの男は、自分の自由を売ることに同意などするものか。p30

・この人間にちかづき慣れるのにつれて、私はますます彼が好きになった。日ごとに私は彼の中に新しい長所を見つけたものだった。以前の私はエゴイズムは野生の人間特有のものであって、人間的な感情や愛や他人のための配慮はヨーロッパ人にだけあるような気がしていたものだが、これは誤りではなかったか・・・。p32