私の身のまわりには、建築関係の職人、建築・建設業関連の設備関係会社、製造業など、自営業・零細会社の人たちがたくさんいます。その人たちは、「仕事が1/3になった」「1/2になった」と一様に言います。
それほど、アメリカに発する不況が深刻なんです。こんどの不況の特徴は、ほんとうに急激に沈んだことです。そしてその幅が非常に大きい。
私が初めて、こんどの不況の事実を聞いたのは、昨年9月でした。仕事上の知り合いに零細会社の社長がいます。製造メーカーの大きな工場の設備メンテナンスが大黒柱の仕事です。昨年9月、出入りしている工場について彼が言っていました。
「5本ある製造ラインのうち3本が、8月から止まった。仕事がドカンと減って商売にならへん。まあ、かつかつ食べてはいけるけどな」
その時は「へえ、そんなんですか……」ということで、話は終わりました。テレビも新聞も、クローズアップされているのは国政批判と衆院解散を求める声ばかり、という時期でした。すでに、仕事の現場、生活の現場で、大不況が始まっていました。
新聞もテレビも、社員や関係者は生産現場とは縁がありません。おそらく広告営業にはね返って来るころに、まず営業社員が現場で苦労をし、番組作りや紙面作りに関わって世論に影響を与える人たちは、その後で事態を知ろうとし始めます。それでも実際に苦闘している人々のことをどれほど理解できるのか、私は常々疑問に思っています。
……そのうちにリーマンショックが伝わり、株価も落ちました。師走には、受注が半分に減ったとか、1/3に減ったとかの報道がつづきました。そんなニュースが伝わるようになってから、私は「お宅どうですか?」と仕事で出会う人たちに聞きました。
驚いたことに、また偶然でもありましょうが、私が聞いた数人の人は、みんな「半分以下や」ということで一致していました。そのうえ、銀行などの融資も、突然厳しくなりました。
先週のこと、ある人は運転資金の融資について、こう言っていました。「借りてくれ借りてくれ言っていたのが急に変わって、貸してくれまへんわ」
そばにいたもう一人の人がこう口をはさみました。「三井住友はあきません、きついですわ。知り合いの会社も三井住友があかんで、UFJから借りたと言ってました。UFJがいいみたいですよ」
すると先に話した人が、「うちはUFJなんですけど、あきまへんわ」と答えました。
大阪で土木設計会社を営む知人から2月に聞いた話はこうです。「景気対策の緊急融資で1千万円借りられることになった。これで設計以外の仕事を手がけるつもりやねん」
別の屋根工事に関係する五十代の職人が言っていました。2月下旬のことです。「年明けから仕事に出たのは6日だけです。この何年というもの仕事が減って減って。手間賃も安うて安うて。仕事やめよと思います。さいわい、大阪で警備の仕事を紹介してもらいました。大手なんで守衛なんかできればええなと思うてます」
別の住宅建築の内装職人は、朝早くから夜10時を過ぎるまで働いています。仕事のあるときにどんどん仕事をしなければ、必要な生活収入が確保できません。手間賃がほんとに安いそうで、時間を多く働かねば生活がやっていけないと言います。建築の内装関係は、電灯がつくので夜遅くでも仕事ができます。彼の年齢は五十代で、「若いときと違って体にこたえる」と言いつつ、「仕事があるだけ幸せ」と自分に言い聞かせています。
以上、手ざわり生活実感的な、不況の報告です。私としては、首相は頼りないとか、小沢さんはアブナイとか、衆院選は早いか遅いかよりも、とりあえずは目先の仕事や生活に追われている人たちが気になってしかたありません。もちろん、私だって、仕事や生活に追われている渦中の一人です。