2016年5月31日朝刊各紙が、消費税10%増税を延期し、衆参同日選がないことを、一斉に確定報道しました。ということは、5月30日夜のうちに、コトが決まったということでした。同6月1日総理大臣記者会見では、安倍首相が消費税10%増税の延期と、7月10日参院選投票日を公式に明らかにしました。衆院解散はなかった。私の見立ては、衆参同日選はあるというものでしたから、当たりませんでした。 ※「安倍首相の政治スタイルから同日選を考えてみる」
■衆参同日選報道・コメントは辻占いと同じていどの値打ちでした
同日選の有無については、有るという見方と無いという見方を並列的に話すキャスターや解説者、コメンテーター、新聞報道ばかりでした。この報道やコメントの質は、私が高3受験生の時に見てもらった占い師と変わりないものです。私の占い師体験を下に書きます。
私の母にはけっこう占いをおもしろがるところがあって、私も時々同行したことがありました。私が高3のあるときのことでした。河原町(私は京都育ちです)に母といっしょに行くことがあり、タクシーの道すがらに母の出来心で途中下車しました。占い師のところで母が見てもらったあとに、高3受験生だった私を見てやってくれと占い師に言いました。
私はどっちでもよかったので、母の言うとおりに見てもらいました。手相を見て、筮竹をもんで、占い師がいろいろと見立てを言います。私はイエスかノーかで詰め寄ります。知りたいのは合格・不合格の結果だけです。それ以外のごまかし講釈は要りません。XX大の入試に通るか通らへんか。何回かくり返して同じことを聞きました。そのときの占い師の最終解答は、「しっかり勉強すれば必ず通ります。しっかりやらないで通る人はいませんよ」でした。占い師は本当にそう言ったんです。
衆参同日選についての数多のコメントや報道は、この占い師と同じていどのものでした。ぐずぐずと話をひっぱって、結局、有るのか無いのかはっきり言わないコメンテーターなど役に立ちません。
報道記者は、できるだけ広範な事実や発言を提示して、読者や視聴者に判断の材料を示すのが主たる役どころでしょう。コメンテーターや評論家と少し役どころが違います。
■同日選有り無し――田崎氏、曽我氏、宮崎氏、後藤氏、孫崎氏
時事通信社解説委員・田崎史郎氏が5月のそんなに遅くない段階で、「同日選は無い」と断言しているのをテレビで見た記憶があります。しかし田崎氏は「安倍首相御用達」評論家として知られ、安倍ボイスマシーンのような人です。彼は、ジャニーズの誰がどうしたこうしたと事細かに興味深く話す芸能レポーターの政界版です。芸能レポーターの料理材料は芸能人。田崎レポーターの料理材料は政治家です。どちらも同じレベルの娯楽、アミューズメントです。それで誰もが田崎氏の言葉通りに受け取らずに、聞き流していました。
きのう6月4日のABCテレビ(大阪)の「正義のミカタ」という番組中で、朝日新聞編集委員・曽我 豪氏が立って、衆参同日選のことについて解説していました。その中で曽我氏は、同日選への安倍首相の意欲を語って、「私は最後まで同日選は有ると思っていました」と話しました。同日選についての首相と周辺の状況を述べて、それで同日選は有ると、最後まで思っていたと話しました。誠実な人です。
この言葉が終わるや否や、コメンテーター席に座っていたなんでも評論家・宮崎哲弥氏が口を挟みました。――私は、熊本地震以後、同日選はないと思っていました。
ああ、みっともないこの言葉。それならもっと早くにそう言ってください。震度7熊本地震の発生は、5月14日夜と5月16日未明の2回です。熊本地震以後と宮崎氏が言うのなら、せめて5月20日ごろに確言予測してほしかった。
私が「安倍首相は選挙直近になると「株高」対策を打つ」に、「私の結論は『消費税増税延期決定』です」と書きいれたのは5月18日夜でした。そして「安倍首相の政治スタイルから同日選を考えてみる」に、「同日選はない」と書き入れたのは5月27日でした。
きょうの宮崎哲弥氏のみっともないことばを聞いたあと、ネットで調べてみると「宮崎哲弥 衆参同日選挙やる意味分からない」というインタビュー動画が2016/05/25に公開されています。
ここで宮崎氏は、衆参同日選挙に対する考えを問われました。宮崎氏は、「私は政局評論家ではありません。政策評論家です」と答えて、同日選の有り無しについて答えを避けています。続けて「衆参同日選挙しなければいけない理由がない」と話しました。同日選の意義がないとコメントしているので、有り無しの見込み判断をしていません。
それなのに、「同日選は無いと思っていた」と、今ごろになって堂々と話すのが彼らしいところです。日ごろテレビで彼が話していることには、彼の考えらしきものは何ら感じられません。おそらくインターネット情報を熱心に収集して、そのネタを話しているだけだろうという印象で、私なんぞにとってはばかばかしくて聞くに堪えません。
もう一人、テレビ番組「報道ステーション」コメンテーター・後藤謙次氏が「同日選はないだろう」と予測しているのを見つけました。「スポーツ報知」2016年5月30日6時0分配信記事で、「7月の参院選を前に支持率も悪くはない。安倍首相は解散の決断はしないだろう」と書いています。5月29日夜までの判断です。後藤氏も無難で政権への心配りしたコメントしかしない人ですが、5月31日一斉報道より一日前のことですから、宮崎哲弥氏とは大違いです。
外務省国際情報局局長ほかを歴任した東アジア共同体研究所・孫崎 享氏も、「同日選挙は、『出来なくなった』」というインタビュー動画が2016/05/26に公開されています。同日選挙は「出来なくなった」と簡単に答えています。各地衆議院小選挙区の1人区で野党統一候補の準備が進んでいて、自民党が議席を減らすのはまちがいない。だから今、衆院解散はしたくてもできないと言っています。話の筋が明解ですし、5/26時点のことです。朝日新聞編集委員・曽我 豪氏が「最後まで同日選は有ると思っていました」と同日選への見込みが当たらなかったことと同様に、好感を持ちました。
衆参同日選の予測は、つまるところ総理の一存に依存しているので、見立てが当たらないことをそんなに気にしなくていい。政界の指導者なら選挙は命がけだからそうはいかないでしょうが、それ以外の人はあたらなくてもいい。それよりも、判断の理由や根拠、評者の考え方などをはっきりと示して結論を出してくれてこそ、評論家やジャーナリストと言えるでしょう。
‥‥この衆参同日選を巡る形勢を2016年6月1日付毎日新聞が伝えているので、下に転載します。同日選への安倍首相の執心がよくわかります。
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検証 消費増税再延期決定(その2止) 「増税」「解散」熟考半年 首相の判断連動 きしみ見え始めた政権 (毎日新聞 2016年6月1日朝刊)
「消費増税の延期について国民の審判を仰ぐには参院選がある」。安倍晋三首相は5月31日夜、出身派閥である細田派の国会会期末の慰労会に顔を出し、衆参同日選は見送り、参院選で増税延期の判断を問う考えを示した。
もともと増税の再延期と衆院の解散は、昨年から別々に検討されていた。しかし、首相が2014年11月の増税延期の際、衆院を解散していたことから、二つの判断は次第に重なり合うようになった。
首相の考えのなかで、方向性が先に明確になったのは、税の方だった。首相は昨年の後半、「(財務省は)消費税率8%への引き上げで経済に影響はないと言っていたのに、大丈夫じゃないじゃないか」としばしば周辺に漏らすようになった。14年4月の消費増税後、個人消費がなかなか回復しなかったことを懸念していた。
首相官邸が、水面下で消費増税の再延期に向けた準備を始めたのは昨年12月ごろだったと政府関係者は明かす。主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の議題を設定するタイミングと重なっていた。
12年12月に返り咲いた安倍首相の政権が3年半にわたり、堅調な支持を維持してきたのは、経済政策のアベノミクスが一定の成果を上げたからだ。だが原油安や中国など新興国経済の不安定化により、株価は下落し、円高も進行した。
新興国経済の不安定化により「世界経済はリスクに直面している」。サミットで首相が打ち出した「リスク論」の原案は昨年12月には浮上していた。
首相は「アベノミクスは雇用創出などでは着実に成果を上げている」と自信を示し続ける一方で、サミットで各国が一致した世界経済のリスクに対応するためだとして、消費増税を再延期する場合の理屈とした。
一方、衆院解散に向けてフリーハンドを得るための策も取った。昨年11月16日、首相はトルコ外遊中に記者団に、通常国会を1月4日に召集すると早々に明言した。150日の通常国会の会期末は6月1日。「解散から40日以内に選挙する」との憲法の規定を使って6月1日に解散すれば、7月10日に衆参同日選が可能となる召集日をあえて選んだ。
個人消費の落ち込みを招く消費増税に踏み切れば、アベノミクスが失速する恐れがある。首相は増税延期に傾いてはいたものの、再延期すれば「公約違反」と批判されることを懸念していた。批判を回避するには、衆院解散をする道がある--。官邸筋は「首相は政治論と政策論との間で揺れていた」と解説する。
最終局面で首相は政府・与党幹部と協議の場を持ったものの、増税延期と同日選回避はすでに決断しており、事実上の「通告」に近かった。二つの決断の過程では、政権中枢や省庁間の亀裂も浮き彫りになった。「政権がガタガタし始めた」(自民党三役経験者)と懸念の声も出ている。
■同日選 徐々に後退
通常国会の開会日が1月4日に設定されたことで、永田町では、年明けから同日選実施への観測が急速に強まった。2月、自民党のベテラン議員が所属の派閥事務所を訪れると、親しい閣僚の一人が、過去の衆院選の得票総数と獲得議席をまとめた資料を差し出した。閣僚が「今みたいに民主党(当時)が全然駄目なときに解散すべきだ」と指摘したため、この議員は「ダブル(同日選)はある」と受け取った。
当初、首相の念頭にあったのは念願の改憲を実現するために衆参両院で3分の2以上を確保するための「攻めのダブル」だった。長期政権の仕上げとして改憲が現実的な目標としてちらつき始めた。「改憲派」の先達である中曽根康弘元首相が断行して大勝した1986年の同日選の再来だ。
首相は2015年に念願の安全保障関連法を成立させており、周辺は「残るは憲法改正。首相がそれを追求しないわけがない」と語る。
だが、その高揚感は長くは続かなかった。年初からの株価の低迷が長引くと、格差拡大などアベノミクスの負の側面が指摘され始めた。中堅・若手議員の失言が相次ぎ、不倫報道で若手議員が辞職。内閣支持率も低下傾向を見せた。
「このままでは参院選で勝ち抜けない」。参院の改選議員の焦りが広がり、参院自民党の溝手顕正議員会長は3月、同日選について「賛成だ」と明言した。衆院選を同時に行えば、連動して参院選での票が伸びるとの参院の議員心理からの発言だった。参院の改選数1の1人区で野党の選挙協力が進み始めたことも危機感を強めた。
憲法改正のための同日選が「攻め」とすれば、この段階では参院選で負けないための「守りのダブル」に変質していた。
「守り」がさらに進むと、解散で衆院の議席が減少することへの懸念が浮上してくる。4月の北海道5区補選で野党共闘が成立し衆院選でも野党共闘の可能性が現実化。自民党の4月調査では、衆院で「20〜30議席減らす可能性がある」(党関係者)との結果も飛び出した。現在の保有議席は自民292、公明35。調査結果の通りになれば、同日選で衆院の「3分の2」ラインを割りかねない。政権の中枢を担う菅義偉官房長官を中心に、慎重論が力を持ち始めた。
「今の衆院議員はかつてほど集票力がない」(自民党幹部)と「ダブル選効果」に疑問を呈する意見も出始めた。5月の自民党調査では、参院選単独でも改選対象の現有50議席以上を得られるとの結果が出た。
31日夜の細田派の会合。首相は「熊本の震災があり、前回(14年衆院選)からまだ1年半しかたっていない。衆院選をあえてやることに国民が理解できるのか。今回は先送りする」と説明した。だが、実際は、政権を維持するための得失を最後まで慎重に勘案した結果の決断だった。