大阪のコロナ感染の広がりと医療危機について連日、全国ベースで報道されています。奈良県に住む我が家から数十メートルのお宅でも家族感染が出ました。一家4人のうち3人が感染。うち2人が退院しましたが、まだ1人退院できていません。
■4月29日、大阪府のコロナ状況 コロナ死は44人
4月29日の大阪府のコロナ発表は衝撃的な數でありました。2021年4月29日 17時18分 NHKニュースによれば、4月29日の感染者数1172人、同日死亡者数は過去最多で44人。3月から4月29日までの自宅療養死亡數累計は9人。
また、4月29日時点の重症患者用の病床は337床、この病床で治療を受けている重症患者数は331人です。
このほかに、重症病床に入れないで軽症・中等症の医療機関で治療を続けている重症患者が58人います。重症患者の数が、用意された重症病床の数を上回っている状況です。
現場の医師からは自宅療養や宿泊療養中の患者の症状が悪化しても病院に搬送されてくるタイミングが遅れることで、治療が間に合わないケースが出てきているという厳しい声もあがっています。 (以上、NHK)
■災害医療 トリアージ
名古屋大学医学部付属病院の山本尚範救急科医局長は3月早々のころに大阪の医療ひっ迫を見て、至急にDMATの活用による災害医療態勢を築くべきだと提唱していました。
大阪府の吉村知事は1週間ほど前の記者会見の折に、記者のDMATの運用はどうかという質問に答えて、すでに現場に入っていただいていると言っていました。
DMATは発災時に災害現場に医療出動する献身的な医師・看護師のチームで、上述の山本尚範医師は大阪府には660人ほどのDMATメンバーがいると言っていました。大都市型神戸大震災の教訓から生まれた全国的な組織で、門外漢である私が知っている特徴はトリアージです。
トリアージとは、災害・事故現場などで一時に 大勢 の負傷者が発生した時に、重症度によって治療の 順番 を決める 対処法です。
しかしここで、大阪府の健康医療部の医療監(医師)は「トリアージ」ということについて重大な勘違いを起こしました。
■年齢区分による医療選別 → 重大な人権問題
トリアージは重症度によって治療の順番を決めるものですが、トリアージ選別の意味を取り違えて、高齢者という年齢区分で治療順位を選ぶという指示を出した行政責任者が明るみに出ました。
これは見過ごすわけにはいかない重大な問題です。今のコロナ社会のように、社会全体に困難や緊張や不満がつづくと、いろいろな種類の無自覚な差別が起こってきます。放っておけば社会の大きな風潮に成長していくことがあるので、たとえ些細なことであっても、たとえ悪気のないままに引き起こされたものであっても、神経過敏になってトリアージ選別の誤用を正しておかねばなりません。
■高齢者の入院優先順位を下げざるを得ない
(毎日新聞 2021/4/30 12:28 から)
■「高齢者の入院優先順位を下げざるを得ない」
■ 大阪府医療監が府内全保健所にメール
大阪府庁で新型コロナウイルス患者の入院調整などを担う健康医療部医療監が、病床逼迫(ひっぱく)を理由に高齢患者について「入院の優先順位を下げざるを得ない」とするメールを4月19日に府内府内全18の保健所長らに送っていた。府が30日、明らかにした。府は不正確な表現だとして内容を撤回し、幹部職員を厳重注意した。
府は65歳以上で無症状・軽症以外の患者について入院を原則としている。健康医療部の藤井睦子部長は「高齢を理由に入院の優先順位を下げることはない」と説明した。 医療監は「DNAR、心肺蘇生を望んでいない高齢の入所者は、施設でみてもらうことを一つの選択肢として検討してほしいというお願いだったが、言葉足らずで深く反省している」と陳謝した。
メール送付が19日、大阪府がこの事実を公表してメール内容を撤回し、医療監が陳謝したのは30日です。高齢者医療順位下げを要請するメールを受け取って、この選別方針の差別性に疑問を抱いた保健所職員が複数いたのではないか。そうした保健所職員が府庁の健康医療部にこの選別方針について照会、あるいは再確認をしたことで、この問題が発覚し、府庁側の公表につながったのではないかと推測します。
私は大阪府保健所職員の中に医療監メールに不審を抱いた者がいたことが問題発覚の原因だと思っています。そうであるとして、府自らの手でメール指示の不適切部分を手早く訂正し公表したことを、大阪府行政組織の健全性を示すものとして歓迎します。
もっとも、今の大阪の感染激増と病床ひっ迫には吉村知事の失政も問われます。大阪府の人口は東京都の63%。コロナ感染数とコロナ死者数を東京都対比で見ればわかることです。
次に、報道写真から読み取った大阪府医療監メール本文を掲載します。
■問題の医療監4月19日発信メール全文
(2021.4.19.大阪府健康医療部医療監発信メール)
府保健所長様
政令・中核市保健所長様
平素より大変お世話になり、有難うございます。
先生方におかれましては、新型コロナ陽性者への対応に大変なご苦労をされておられることと存じます。
本日の段階では重症病床の稼働数は271例と運用病床数の248例を大幅に超えており、中等度病床でも挿管事例が40を超えており、さらに高濃量酸素を必要とするケースを100例以上診ていただいています。このため、病院には多大な負担がかかっており、数字上空床があっても新規患者を受けられないという事態が多発しております。
以前にも増して入院調整が厳しくなっており、先生方には大変なご迷惑をおかけしております。
当面の方針として、少ない病床を有効に利用するためにも年齢が高い方につきましては入院の優先順位を下げざるを得ないことをご了承いただければ幸いです。
特に高齢者施設に入所中の方でDNARの方につきましては、看取りも含めて対応をご検討いただきたく存じます。
先生方には無理なお願いばかりで心苦しいところでありますが、ご理解いただきますようよろしくお願いいたします。
上のピンク文字の部分にご注目ください。「年齢が高い方につきましては入院の優先順位を下げざるを得ない」と明言していて、弁解の余地はありません。
これは、年齢という人間の属性によって医療優先順位を決定するよう要請するもので、明確な高齢者選別による医療差別です。人間の持つ属性によって享受できる社会的サービスに差異を設定することは、「差別」なのです。してはいけないことです。
一方、トリアージは異常環境における医療優先順位を患者の重症度によって区分するもので、高齢者選別とはまったく関係のないことです。