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「ニッポン景観論」 アレックス・カー

2014-12-16 | 読書


先週、こたつでうたたねして一週間近く風邪ひいてた。風邪のときは部屋を暖かくして正式に布団で寝るのが私の場合、結局は治りが早い。

寝床での退屈しのぎに、同居人から借りて読んだ本。写真多くて割とすぐに読めます。

著者は若い頃日本に来て、日本文化の継承、景観保護の必要性を訴える評論活動と講演、各地の古民家を宿泊施設として再生し、滞在型の観光客を受け入れるなどの事業をしている。

その著者の目から見た醜悪な日本の景観を、写真とともに見て廻るという趣向の本。

いゃあ、確かにね。日本の観光地、看板多すぎ。国宝の前には必ずある茶色の大きな看板、私は文化庁あたりが建てたとばかり思っていたけど、HITACHIが建てたんですってね。国宝の前でさりげなく自社の宣伝をする。手が込んでいる。企業のイメージ戦略ですね。

しかしまあ、団体バス旅行の人にはあの看板は便利ではなかろうか。限られた時間で確かに行ったという証拠写真の背景として好都合。

地方の自治体が補助金で人を驚かすような奇抜で大きなホールを作っても、あとの維持管理に苦労するのもよく聞く話。

で、私は思ったのだけど、どちらも文化的成熟度がやや足りない現象ではあるまいか。人は人、私は私、自分の好きなもの、行きたいところは自分で決める。

あるいはまた、箱モノを作ったところで産業構造が深いところで変化している時代の流れにはあらがえない。それよりは、本当にこの土地らしいものは何か、それを自信を持って発信していく。その腹の括り方ができていないということではあるまいか。

自分の土地の文化と伝統を大切にする。それが未来につながる人間のとして生き方、そう思うとなんだかすっきりした。

モンタージュ写真でフィレンツェのダビデ像の前に、日本で見かける看板各種をモンタージュしているのには笑えた。

曰く「文化財愛護 ダヴィデ像 ミケランジェロ作 フィレンツェ 火気厳禁 HITACCO」「彫刻付近での集合写真撮影はご遠慮ください」「石段の上に登らないでください PLEASE KEEP OFF」「ここは禁煙 たばこは休憩所で NO SMOKING」「飼主のみなさまへ ボクは自分でウンチを持って帰れませんだからお願い持って帰って京都市」←これは京都市内で撮影したものらしい

いゃあ、看板に埋め尽くされたダビデ像、とっても品がない。それは看板に品がないから。そう注意することで、見物人も幼児化してしまうという構造がよく分かる。

ダビデ像を目の前にして説明は不要であろう。よしんば知らずに来たとしても、虚心に鑑賞すればよろしい。

日本人=私は看板に見慣れているので、同じものをよその国においてみるとどれだけおせっかいで醜悪かよく分かる。看板立てても犬の糞の始末をしない人はしないし、出来る人は看板なくてもするはず。市民一人一人の自覚である。

それが景観として現れる。そう言うことだと思った。

モノづくりから観光立国へ。これからの日本はそうなるだろうとの著者の予測。昔からの日本的な景観、それこそが日本の宝であると。


疑問点一つ。日本は砂防ダムが多い。それも景観を壊すとこの本にはあるが、日本の川は大陸と違って急流、雨も多い。土石流、洪水を防ぐためにはどうなんだろう。デザインを環境と調和したものにして、必要最小限の土木工事は必要ではなかろうか。

安心したこと一つ。著者の手掛けた古民家の宿泊所、とても居心地いいそうで。

20年くらい前、サライでみた藁ぶき古民家に宿泊して本当に大変だった。朝三時までテレビ付けたまま寝ている部屋があって、眠れず、朝は朝で、洗面所へ行く人が間違えて私達の部屋に入って来たこともあった。食事は庭に生えてる草みたいなのを天ぷらにして、いゃあ何とも。

でも著者の関わる宿は全て、快適に改装し、そういう何もないところにじっと滞在するのは何よりの贅沢かもしれない。

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