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音盤日誌:キム・カーンズ「ベティ・デイヴィスの瞳」1981・「愛と幻の世界」1982

2020-10-19 21:00:00 | 音楽帳


秋らしい曲、をめぐる凸凹脱線しながらの音楽の旅。
脳裏には、1982年秋ケイト・ブッシュとともに、当時新譜を発表したキム・カーンズが浮かんでいた。彼女の新譜とは「愛と幻の世界」だが、その作品には「ベティ・デイヴィスの瞳」という前段が繋がっている。

●ベティ・デイヴィスの瞳
キム・カーンズ初の大ヒットシングル曲「ベティ・デイヴィスの瞳」はいまだに大好きで、聴きたくなるときがある。
青江三奈(むしろ中村あゆみかな?)みたいにハスキーな歌声も素敵だったが、ストレートな音色のシンセサイザーが心地よく、凄く魅力的と昔も今も感じる。

「ベティ・デイヴィスの瞳」は、80年代初頭のテクノ/ニューウエイヴの波を受け、ポップス畑の人たちがシンセサイザー等デジタル機器を取り込んだ初期段階の代表曲、ではないだろうか?。
この曲は1981年作品だが、当時アメリカのビルボードチャートで9週連続1位を達成し、年間チャートでもナンバーワンの曲となった。それくらい「キャッチーでポップ」な曲。全米1位ということは、アメリカ型一般ミュージシャンのテクノ化の試金石でもあったのだろう。

なにぶん、この80年代初頭はシンセサイザーを使ったり・ピコピコさせるだけでも「非人間的音楽」、という扱いを受けるケースがどの国でもあり、アメリカのポップス畑でも導入可否で二分化し揺れていた。しかし、そんな中、この曲が1位になってしまったということは、テクノ化の勢いを止めることは不可能ということを意味していた。残るは、これを自らの音楽の中に取り込むか否か、だったが、それはおのおのの判断。。。キム・カーンズはこのような方向にかじを切って、一時的だが成功者となった。



今回シングル「ベティ・デイヴィスの瞳」を改めて振り返って、39年目で初めて知ったことが2つあった。
 一つ目は、これがカバー曲だったこと。原曲は、ジャッキー・デシャノンというシンガーソングライターが発表したカントリーソングであったが、大して売れなかったという。その曲を元々アメリカのローカル色が強いミュージシャンのキム・カーンズがカバーしたわけである。
 もう一つは、この曲がまだテクノ化していない他国の音楽家へ影響していたこと。例えばまだ統一前ドイツで、音楽すら国家権力に統制されていた中、「Silly」というユニットがこの曲をカバーしている。
1つの音楽的ブームが来ると、そっくりな音楽やカバー曲が生まれるのは必然だが、それがまだ東西二分化されたドイツで、国家からいちゃもんを受けながら、というのが実に興味深い。


■キム・カーンズ「ベティ・デイヴィスの瞳」'81■

●愛と幻の世界
「ベティ・デイヴィスの瞳」の流れを受けて制作されたのが翌年1982年9月発表のアルバム「愛と幻の世界」。
前作で導入したテクノ/ニューウエイヴ的味付けが功を奏したため、この路線をさらに進めた作品。その勢いがいくつかの曲で成功している。

国内では、先日話したFM番組「サンデー・ミュージック」(1982年10月10日放送)で、ケイト・ブッシュとともにLP「愛と幻の世界」から何曲か紹介された。実際のアルバムは、この放送日より早い9月21日に国内発売された。シングルカットされたタイトル曲「愛と幻の世界(ヴォイヤー)」は、LPのA面トップに配置されている。続く2曲目「ルッカー」もわかりやすくポップである。

余談だが、このラジオ放送を収めたカセットテープを失ってから、もやもやしていた。好きな曲がどこにあるのか?全くわからないものが在ったからである。どうもこれ以外でテクノっぽい曲があったはず、、、と糸口をこのLP「愛と幻の世界」に探していたが、まったくそれらしき曲が無く、わからない時間を数十年過ごしていたのだ。しかしそのもやもやしていた曲は、前年「ベティ・デイヴィスの瞳」を収めたLP「私の中のドラマ」のほうに入っていたのだ。
「運命のカード(Draw Of The Cards)」という曲。これのどこかテクノ?ニューウェイヴ?と言う人もいるだろうが、この程度の打ち込み的リズムでも自分にとっては心地良く、当時は気に入っていたのだ。


■Kim Carnes「Draw Of The Cards」'81■

80年代(といっても中盤まで)は、キム・カーンズに限らず多くのミュージシャンがテクノ/ニューウエイヴ的世界との付き合い方と距離感をどうすべきか?悩んだ時期だった。従来型の楽器と演奏、曲作りの作法といったものに対して、シンセサイザーやコンピューターをどう導入・融合していいかわからなかった。
ただ、悩んだ割には「時が解決する」もので、あっという間にシンセ、コンピューターが進化・安価になり、スタジオ機材として一般化したおかげで、その高く感じた壁は容易に融解した。

しかし、このテクノ化の壁を高く見過ぎると「愛と幻の世界(ヴォイヤー)」の下記PVのようになる。マック赤坂やミラーマンのような宇宙服(銀色のスウェットスーツ)を着て踊り狂うキム・カーンズ。
「痛いなあ、、、走り過ぎてますよ」と思うが、それは後になったから言えること。こうしたくなる当時の気分は良く理解するし、(映像は抜きで)今でも秋と言うと思い出す大好きな曲には変わらない。

この映像を見ていると、後ろを通ったツレが「これ誰?ローリー寺西?」という名言を吐いた。
うう~っ、、、それは、当たらずとも遠からず、である。


■Kim Carnes「Voyeur(愛と幻の世界)」'82■

実は「ボイヤー」とは「のぞき魔」のこと。「愛と幻の世界」と変換とはかなり苦しい日本語タイトル。キム・カーンズにボンデージを着せるか否か?悩んだ末に宇宙人的銀色服となったのだろうか?真相は不明である。


薄い壁の向こうから
異常行為を語る声が聞こえてくる
彼女を救いうるものは
ヴィデオだけ

声が消えるとスイッチを入れ
彼女は振り向いて
ハイヒールに足を滑りこませる
影が部屋を覆いつくすと
彼女が動きはじめるわ

のぞき魔さん 今夜は危険な気分?
いい気持ちになるまで
踊って踊って踊りまくるのよ
のぞき魔さん今夜の獲物は誰?
愛が炎と燃えていようと
それは心の底に潜んでいるわ

ランジェリーと美しい体が
奇妙で甘い愛撫をまだ求めてる
刺激的な愛には不自由しない彼女だけど
生活そのものはめちゃくちゃよ
でもやましいことはないと言うし
言い訳は決してしない
彼女は自ら認めてるの
自分のお気に入りは自分だけだと

のぞき魔さん
今夜は危険な気分?
いい気持ちになるまで
踊って踊って踊りまくるのよ
のぞき魔さん
今夜の獲物は誰?
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