二胡工房 光舜堂

二胡を愛する全ての人へ

聴くことこそ楽器の始まり、その4.

2012-09-15 08:57:03 | ■工房便り 総合 
だいぶ前になります。

新宿の西口を歩いていて、ふと見ると、多分あれは、大学の頃の知り合いのTさんに似た感じの人が、段ボールの家の前に座っていました。

「Tさん?」と声をかけると、じっと私を見ていましたが、「、、、、、、、、」でした。

そこで、近くのコンビニでお弁当を二人分買ってきて、差し出すと。

「俺は乞食じゃない」

構わずに私も段ボールの上に座り込んで、弁当を食べ始めました。

「久しぶりじゃない一緒に飯食おう」

ぼそぼそと何か言いながらも、二人で通行人を眺めながらお食事です。

その時見えていた風景が随分普段通っている新宿の西口とは違って見えたものです。

私の子供たちがまだ小さな頃、良くしゃがんで、一緒に地面を掘ったり、木の屑を削ったりもしました。

その時にも見ている風景が変わる感じはありましたが、やはり人が沢山通るいつもは自分が見られている風景とは、Tさんと一緒に段ボールの上で食事をしたときの感覚というのは、もの凄い違いがありました。

それは、子供たちと一緒に遊んだときのように、高さが低くなったからということだけでは無いと思うのです。

環境そのものが変わります。

普段自分があるっている時と音が大きく違って感じるのです。

多分、段ボールの上とはいえじかに地面に座っていますから、歩く振動の方が大きく感じられるのでしょう。

その上、自分の目の前というのは殆ど人の足ばかりです。

上を見上げるというのを日常では殆どやっていません。

たまに、夕焼けや虹が出た時など、或いは雨が降りそうな風が出てきた時など空を見上げます。

こうやって、地面に座って、食事をしていてその目の前に人々が通ったとしてもそれは人としては感じないものです。

ただただ、何か頭の上を通過する音たちの流れでしかありませんでした。

音というより振動と言ってよいかと思います。

その中に、踵が硬いヒールの靴の音などがあると、とても違和感のある音として耳に飛び込んできます。

多分立って自分も通行人の一人として歩いている時には気がつかない音なのかもしれません。

目の前を歩く人々の足の響きが水の流れのように絶え間なく身体に響きます。

人々の中に居るというより、何か自然の中に居るような錯覚を感じました。

立ち止まって段ボールの上に座ったということでじぶんの中の物の見え方も変わり、

どう変わったのかは分かりにくくとも、日常とは違う音の聞こえ方があるというのは分かった気がします。

それが何か大切だということでもありません。

それで何か私の生活が変わったわけでもありませんが、音というのは振動なのだとつくづく思ったのです。

ただ、それ以来、人の声というのにもかなり違った感じ方をするようになったかもしれません。

人と話す時に、勿論話している内容というのは大切ですが、

その呼吸、その話の間、リズム、強弱、どちらかというとその方に気を取られ、いつの間にか話の内容を聞いていないことも有ります。(気をつけなければ)

もちろん皆さんそんなことは自動的にやっていることでしょう、

あの人の声は良いねとか、話の間が良いねとか、意識せずとも感じてはおられるでしょうがそれを意識すると、人と話すのは、人の話を聞くというのは一つの音楽のような感じがします。

以前、モントリオールで、時間があり、映画館に入りました。

やっていたのは「マインカンプ」

最悪なことに、ドイツ語の映画で、フランス語の字幕。

ただ、これは言うことを少しはばかれるのですが、純粋に感じたことですから書きます。

その映画の中で、ヒットラーが、静かに話し始めます。

その演説は音としてだけ私の中に入ります。

しだいに声も大きくなりじわじわと口調もはっきりし、ヒットラーの声が、しだいに館内を埋め尽くします。

最後に聴衆たちの「ハイルヒットラー」で結ばれるまでのその音のリズムと強弱はまるでラベルのボレロを聴くような快感がありました。

演説というのはこういうものだと、中身もあるけれども人を引きつけるリズムと強弱その声音というのは、まるで音楽のようだと感じたものです。

はなしの中身というのも大切ですが、それを表現する音の、声というもの大切さというのも感じました。

人は話の中身も有るでしょうが、むしろその話し方で人に伝えることも多いのではないだろうかと、最近感じます。

その後、Tさんとは2回ほど、段ボールの上の食事をしましたが、新宿の歩道の改装後彼とは会っていません。




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