二胡工房 光舜堂

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バイオリンの表板と蛇皮は同じ。(人工皮について)

2013-05-24 07:38:22 | ■工房便り 総合 
或る時バイオリンの表板を削っていて気が付いたことが有ります。

それは良く削れたバイオリンの表板のスプルス材と、蛇皮の良く張れた状態がほとんど同じ感じがするのです。

蛇皮の張る時によく叩いて音を決めて行くという方法が有ると言われます。

それも有りますが私の場合は、指先で、皮を押していくのです。

その弾力と跳ね返りで殆ど張り具合を決めています。

人の指先は、人の耳の感度より数百倍もよいからです。

人の指先は100分の1ミリと、100分の2ミリの違いを訓練していなくても触り分けます。

訓練された人は5000分の1ミリと5000分の2ミリの違いが判ると言います。

二胡に張った蛇皮の弾力の違いというのは、どなたにでも分かるぐらいなものです。

バイオリンを削っていて、いつものように押してみました。

その時に、何と蛇皮の弾力が伝わって来ます。

振動膜という点では同じなのでしょう、見事に蛇皮の弾力なのです。

バイオリンの表板はスプルスというヨーロッパの松です。

繊維質の強い、比較的柔らかい材料ではありますが、これが見事に皮の弾力と同じ感じがします。

同じように、カーボンのバイオリンを押してみました、やはり少し違和感が有ります。

跳ねっ返ってこないのです。

蛇皮は鱗という硬い部分が有りますから、跳ね返ります。

押した時に戻されるのですが、カーボンはその跳ね返りが弱いのです。

当然ですね、カーボンは幾らガラス質の布地がカーボンと一緒に塗りこまれているとはいえ、ガラスの布地そのものが弱いものですから。

これがバイオリンのスプルスですと、木目の冬目の硬さが、跳ね返りを生み出します。

蛇皮は、鱗の部分をとってしまうとかなりフワフワの、ウサギの皮のような感じなのです。

それを、鱗の部分が補強しています。

柔らかい素材と、強い素材の組み合わせです。

バイオリンは木で削っただけだと強さはありますが、まだ緩い感じはあります。

これは二胡の蛇皮で言うと、15年ぐらい弾きこんだ楽器の蛇皮の弾力のような感じがします。

音もとってもぼってりとして高音が出にくいのです。

そこで松脂とオイルを組みあわせたニスを表面に塗ります。

松脂ですからかなり硬いです。

そうすると、バイオリンのパンとした音が、鳴り響きます。

スプルスと、硬い塗料の組み合わせが、あのバイオリンの鳴りを実現します。

バイオリンはオールドと言われる100年以上前の楽器が珍重されます。

理由は新しい楽器は鳴りにくいのと、比較的音に余力が無いのです。

ふくらみが無いとも言えます。

二胡の場合も弾きこまないと鳴り始めません、少し弾き込んで皮が緩くなり始めると低音も出て来て、うねるような鳴りになります。

バイオリンも同じなのですが、蛇皮よりさらに時間がかかります。

理由の一つは、塗料の劣化に在ります。

松脂や、アルコール系の塗料之ニカワ分は時間が経つに従って、結晶化し始めます。

硬くなるとともに結晶同士が分離し始めます。

これは塗料としてはもろくもなりますが、状態としては、蛇皮の鱗が小さな鱗の集積なのと同じように、硬い部分の間に柔らかい隙間が出来、振動しやすくなるからです。

硬い結晶を柔らかいオイルがつないでいる状態です。

この事を、人工皮でも実現できれば、二胡の人工皮も蛇皮におとらず鳴り始めます。

もちろん新しいバイオリンでも、最初からこの塗料が分離して、結晶化した状態で塗料を塗ると、新しいにもかかわらず、オールドの響きを持ちます。

これがバイオリンが古くなると良くなるということの秘密の、一部であると私は考えています。



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