今年5月、国連拷問禁止委員会の席上、日本の刑事司法制度を「中世的」と非難された日本の人権人道担当大使が「シャラップ[Shut up]!」(口を閉じろ!)と威嚇的な発言をしていたことが、今月になって報じられた。
大使は「中世的」との非難に対して「日本はこの分野では世界で最も先進的」云々と反論したところ、会場から失笑が沸いたことに反発してこの発言に及んだようである。
日本の自白中心の司法が「中世的」であることは、日本人でも事情を知る者にとっては常識である。それを日本は刑事司法分野で最も先進的などと臆面もなく宣言すれば失笑されて当然である。口を閉じるべきはどちらか。
戦前、日本が国連の前身である国際連盟の満州事変対応に反発して一方的に脱退したときの松岡洋右外相でさえ、これほど非礼な威嚇発言はしなかった。
大使は状況的に意図せず口走ったのかもしれないが、それにしてもとうとうここまで来たか、という感がある。国連の人権勧告は無視ないし開き直りというのが日本政府の原則的対応だが、非礼な表現で口封じまでしようというのは新たな段階である。
「シャラップ!」は単なる「暴言」ではなく、国際人権分野における日本政府の―日本国民のではない―立場を簡単な英語俗語表現で明瞭に示している。件の大使は日本政府部内では「日本の立場を世界に発信した」英雄として迎えられるかもしれない。5月の段階で即報がなかったのも国策に沿ったマス・メディアのいつもの自主規制だろうか。
もっとも、国連も人権分野では「本気度」が疑われる。強制力のない勧告を何度繰り返しても、日本のように開き直ってしまう国に対して効果はない。そもそも悪名高い人権侵害常習国がいくつも人権理事会の理事国に名を連ねているのだから、大甘である。
人権裁判所を欠く国連が人権問題で強制力を発動するのは難しいが、せめて日本を含めて国際人権基準を満たさない諸国の人権理事会理事国資格は剥奪すべきである。それに反発して日本政府がシャラップ!ならぬ再び国連脱退!となるかどうかは関知しない。