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人類史概略(連載第3回)

2013-08-06 | 〆人類史之概略

第1章 絶滅した先覚者たち(続き)

最初の用具革命
 用具の発明がホモ・ハビリスの栄誉に属する功績だとすれば、用具の発達史上に革命を起こしたのは30万年ほど前に出現したホモ・ヘルメイであった。
 それ以前に氷期をはさんで、およそ180万年前に出現したホモ・エレクトスという画期的な種族がハンドアックスのようなより精巧な石器を発明し、用具生産を進歩させてはいたが、ホモ・ヘルメイのほうは調製石核技法という石器生産上の革新を成し遂げたのだった。
 これははじめにほどよく調製された石核を作りおき、そこから剥片石器を打ち出していくというもので、これにより種々の石器を効率的に製作することができるようになった。この人類史上最初の用具革命というべき画期以降を考古学の編年上「中期旧石器時代」と呼ぶが、現生人類もその出発点においてはこの文化段階にあったと考えられている。
 ホモ・ヘルメイはアフリカで誕生し、長年月をかけてアフリカを出て各地へ移住する「出アフリカ」を行い、25万年ほど前までに今日のユーラシア大陸全域に拡散していった。そこからヨーロッパ地域では、かねて「旧人」の代表格として知られてきたホモ・ネアンデルターレンシス(通称ネアンデルタール人:以下「ネ人」と略す)に進化したと見られる。
 ネ人はかつてホモ・エレクトスのような原始的な「原人」と進歩した「新人」たる現生人類との間を進化的につなぐ「旧人」と考えられていたが、その後の研究でこうした直接的な系統関係は否定された。
 しかし、近年になって、現生人類がごくわずかながらネ人の遺伝子を継承していることが明らかにされ、一部で両者の混血が生じていた可能性も浮上した。結局、ネ人は現生人類と共通の祖先を持つ近縁の別種であるが、現生人類が一部遺伝子を引き継いでいるというのが、最新の知見のようである。
 いずれにせよ、ネ人は中期旧石器時代を代表するホモ属であり、調製石核技法の主要な担い手となった。また、かれらは集団で狩猟をしたほか、石器や木器の加工や動物の解体などの共同作業を実践し、集団的な「社会」の原型を示していたと見られる。
 ネ人が現生人類の大きな文化的特徴である言語を有していたかどうかについては見解が分かれ、発声機構に未発達の部分が認められるネ人は分節化された音声言語を話すことはできなかったとする見解が有力である。
 しかし現生人類と類似した舌骨の存在から、ある程度の言語を話せたという見方もある。かれらが共同作業を実践していたことや、現生人類との交雑の可能性もあることからすれば、何らかの単純な言語的発声をしていた可能性はあるだろう。
 とはいえ、ホモ属としてのネ人には少なからぬ限界性があり、石器生産に関して現生人類のような革新は示さなかった。また壁画のような芸術行為や交易のような経済行為を行った証拠もない。
 ただ、ネ人が現生人類と一部地域で共存していたと見られる晩期に、ネ人が逆に後発の現生人類が開発した新たな石器製作技法―石刃技法―や死者を埋葬する習慣などを学習していた証拠はあり、ネ人はそうした文化学習能力は備えていたと見られる。
 結局のところ、ネ人は中期旧石器時代の代表的な先覚者ではあったが、まさに先覚者にありがちな限界性を抱えており、進化の一定段階で絶滅し、一部遺伝子を現生人類にバトンタッチしながらも、種としては姿を消していったものであろう。

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