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人類史概略(連載第4回)

2013-08-20 | 〆人類史之概略

第2章 現生人類の誕生と拡散

環境適応と「人種」
 現生人類ホモ・サピエンス・サピエンスは、およそ20万年前、アフリカ大陸でホモ・ヘルメイから進化した亜種として誕生したと考えられている。この新種のホモ属も、当初は中期旧石器時代の文化段階からスタートし、先覚者たちと同様に「出アフリカ」して世界に拡散していった。
 「出アフリカ」→拡散という行程においては先行の絶滅人類を踏襲していたわけだが、違っていたのは現生人類の際立った拡散力と環境適応力とであった。
 現生人類の「出アフリカ」の経路やその回数、拡散ルートといった細部に関しては、すでに人類学者によって活発な議論が行われているため、この概略史では言及しないが、ともかく現生人類は南極大陸を除く世界の隅々まで拡散し、各々その土地の環境に適応していったのである。
 その適応の過程では、肌の色や容貌といった外形まで進化・変容させて、いわゆる人種的な差異を生み出すようになった。そうした差異があだとなって、後々人種差別のようなネガティブな事象も生じることになったわけだが、人種の別とは決して人間間の優劣関係ではなく、むしろ現生人類の環境適応力の高さを示す変数なのである。
 この点、今日の有力学説によれば、我々現生人類は20万年近く前にアフリカに実在した共通の母系祖先(いわゆるミトコンドリア・イブ)を持ち、特に非アフリカ人は、7ないし8万年前という比較的「近年」になって出アフリカに成功した一集団の複雑に分岐した子孫たちであることが遺伝学的に明らかにされつつある。要するに「人類皆きょうだい」は単なる道徳的スローガンではなく、科学的にも証明されつつある命題なのである。
 ということは、現生人類そのものが先行人類に比べて特別に環境適応力に優れていたというよりは、現生人類の中でも特定の一集団とその子孫たちが他の同胞集団よりも環境適応力に勝っていたというのが正鵠を得ていよう。

残酷さと強欲さ
 現生人類はその誕生時からしばらくはホモ・ヘルメイやネアンデルタール人(以下、「ネ人」という)のような先行種と共存していたと考えられているが、なぜ現生人類だけが生き残ったかという問題は大きな謎である。特に長期にわたって共存していたと見られるネ人はなぜ忽然と姿を消したのか。
 そこにはネ人に内在する限界もあったであろうが、現生人類による集団的排除の可能性を排除することは楽観的にすぎるだろう。現生人類は残酷さという性格を共有している。このことは、現生人類が多くの動物を絶滅に追いやってきたばかりでなく、世界歴史の中でも数々の同胞殺戮が繰り返されてきた事実からも明らかである。
 現生人類はネ人をはじめとする先行人類を殺戮した━。それは絶滅の唯一の要因ではなかったとしても、少なくとも絶滅を促進はしたと推定することは不合理ではなかろう。
 ただ、その殺戮は直接的な襲撃・殺害ばかりでなく、狩猟採集の場をネ人などから奪い取って相手方を飢餓に追い込むといった経済的な「殺戮」も含まれたと見てよいであろう。少なくとも、現生人類は先行人類と末永く平和共存する意思を持ち合わせなかった。
 ちなみに現生人類がわずかながらネ人の遺伝子を承継していることについても、これを平和的な「通婚」の結果とみなすのは楽観的であり―それならばより多くの遺伝子承継があって然るべきであろう―、残念ながら集団的レイプのような暴力の介在を想定せざるを得ない。
 こうした残酷さに加え、現生人類には並外れた強欲さという性格も備わっていた。この性格は残酷さとも表裏一体であり、当初は狩猟採集の場の独占といった形で発現し、実際に成功したのだろうが、後に狩猟採集をより大量的・効率的に行うための新たな用具の開発という用具革命の加速化をもたらす原動力ともなったのである。

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