第九章 連邦構成ソヴィエト社会主義共和国
前章に続いて、本章では連邦を構成する共和国の定義と権限が規定されている。
【第七十六条】
1 連邦構成共和国は、他のソヴィエト共和国とともにソヴィエト社会主義共和国連邦に統合された主権的ソヴィエト社会主義国家である。
2 連邦構成共和国は、ソ連憲法第七十三条にのべられた範囲の外において、その領土で国家権力を自主的に行使する。
3 連邦構成共和国は、ソ連憲法に適合し、共和国の特殊性を考慮した自分の憲法をもつ。
連邦構成共和国は、ソ連邦に統合されながらも、独自の憲法を持ち、連邦管轄事項以外の事項については、自国領土で国家権力を行使する、それ自体も一個のソヴィエト社会主義国家であるとされる。表面上は、通常の連邦国家の州よりも強力な自治権が保障されているように見えるが、後で明かされるように、実態はそうでなかった。
【第七十七条】
1 連邦構成共和国は、ソヴィエト連邦の管轄に属する問題の解決に参加し、ソ連最高会議、ソ連最高会議幹部会、ソ連政府およびソヴィエト連邦の他の機関に参加する。
2 連邦構成共和国は、その領土におけるソヴィエト連邦の権限の行使に協力し、ソ連の国家権力および行政の最高諸機関の決定を実施する。
3 連邦構成共和国は、その管轄に属する問題について、連邦に属する企業、施設および団体の活動を調整し、監督する。
連邦構成共和国は、ソ連全体に関わる問題の解決に連邦諸機関を通じて参加する一方で、連邦の協力機関として、連邦の名代も務めさせられた。どちらといえば、後者の役割が主であった。
【第七十八条】
連邦構成共和国の領土は、その同意がなければ変更されない。連邦構成共和国間の国境線は、当該共和国の合意により変更され、この合意はソヴィエト連邦の承認を必要とする。
連邦構成共和国の領土及び国境線に関する保障規定である。
【第七十九条】
連邦構成共和国は、その地方、州、管区および地区への区分を決定し、行政区画のその他の問題を解決する。
連邦構成共和国は、それぞれ四段階の地方行政単位を持つことができた。
【第八十条】
連邦構成共和国は、外国と交渉し、条約をむすび、外交代表および領事代表を交換し、国際組織の活動に参加する権利をもつ。
この条文だけ読めば、連邦構成共和国には独立国並みの自主外交権が備わっているかのようであるが、第七十三条第十号で「連邦構成共和国と諸外国および国際組織との関係の統一的手続きの制定および調整」が連邦管轄となっていること、次条で連邦構成共和国がソ連邦の保護国扱いとなっていることから、実際上、外交はソ連邦が一元的に行なっていた。
【第八十一条】
連邦構成共和国の主権的権利は、ソヴィエト連邦の保護をうける。
最後に、冒頭第七十六条では「主権的ソヴィエト社会主義国家」と規定された連邦構成共和国が、実はソ連邦の保護国として主権制限されていることが種明かしされて、第八章は閉じられる。