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犯則と処遇(連載第16回)

2018-12-21 | 犯則と処遇

14 共犯について

 前回見た未遂犯に関わる問題とともに、「犯則→処遇」体系の下で、「犯罪→刑罰」におけるのとは異なる理論的変容が生じるのは、共犯に関わる問題である。共犯は他人と共に犯則行為を確実に実行しようとする点で、失敗リスクも高い単独犯に比べて、反社会性向は初めから相当程度高いとみなさざるを得ない。

 とはいえ、共犯にも様々な類型があるが、最も反社会性向が高いのは主犯格(複数共同主犯もあり)であることも疑いない。その際、重要なことは共犯関係を主導したかどうかという点であり、共犯の態様が直接的か間接的かは関係ない。従って、例えば、Aが中心となって犯行を計画し、Bに指示して実行させた場合、Aが主共犯として処遇されることになる。
 この場合、仮にBがAの指示に反して犯則行為を実行しなかったとしても、Aは放免とならない。Bが犯行をとりやめたのはAのあずかり知らないBの独断によるもので、Aとしては自分の指示どおりに犯行がなされたものと信じていた限り、Aの反社会性向は変わらないからである。
 ただし、何も起きなかったので、未遂犯ではあるが、Aのあずかり知らない事情による不発であるから、偶発未遂にとどまる。なお、A自身がBに指示して犯行をやめさせた場合は中止犯となる。

 一方、主犯に従って犯則行為を実行する従共犯に関しては、やや細かく見る必要がある。従共犯は、主共犯の教唆や指示によって犯則行為を実行するという点で、主共犯に比べれば、反社会性向は相対的に低いと言え、多くの場合、「第一種矯正処遇」で済むであろう。ただし、犯行組織/グループ等のメンバーとして役割化している場合はこの限りでない。
 従共犯は主共犯の指示に従って犯則行為を自ら実行する場合(実行従共犯)の他に、犯行の謀議に加わる共謀犯と犯則の実行を容易にする幇助犯とが区別される。

 共謀犯は、犯行の謀議に参加し、計画に加わることである。共謀者が主犯格である場合は、まさに主共犯とみなされるから、共謀犯であるためには、従属的な立場にあることが条件となる。
 ちなみに、犯行の計画を単に知らされていただけでは共謀犯とは言えないが、公務員のように、自ら覚知した犯行を報告・告発等すべき立場にありながらあえて黙認したような場合は、不作為による共謀犯として処遇されることもある。

 これに対し、幇助犯はまさに助手のような形で犯則行為の実行を手伝うものであり、犯行への加担は最も従属的であり、殺人行為への加担のような場合を除き、「保護観察」相当の場合も少なくないであろう。
 幇助犯の典型は、例えば、AがC宅への侵入窃盗を企てていたBから頼まれて所有する道具を貸し、Bがその道具でC宅に侵入したような場合である。
 しかし、結局、Bが思いとどまり何もしなかったという場合、Aの道具貸与はBにとって何ら役に立たなかったのであるから、Aが窃盗幇助犯として処遇されることはない。

 また、Bは計画どおりC宅に侵入したが、Aから借りた道具は使用せず、自分の道具を使用したという場合も、Aの道具貸与はBがC宅に侵入するに当たり役に立っていない以上、Aが窃盗幇助犯として処遇されることはない。
 もっとも、この場合、Aの道具貸与がBを勇気づけたというように、精神的な面で役立った限りAは窃盗幇助犯に当たると解釈する余地もあるが、そうした精神的な幇助関係はひとえに主犯側の主観的な事情にかかるものであるから、独立した犯則行為とみなすべきではない。従って、幇助犯とは厳密には「主犯を物理的に幇助する者」と定義されるであろう。

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