15 過失犯について
「犯則→処遇」体系における犯則行為とは基本的に、意図して犯則行為を実行する故意行為であって、不注意による過失行為は例外的な犯則行為である。
そのうえ、「犯則→処遇」体系からすると、処遇の対象とすべき過失犯は、結果を容易に予見し得たのに不注意で予見せず、漫然と危険行為をし、または必要な結果回避行為を怠る重過失犯の場合であり、軽過失犯は処遇の対象外である。
もっとも、職業上高度の注意義務が課せられている者の過失、すなわち業務上過失の場合は、軽過失犯も含め処遇対象となる。業務者は一般市民が容易に予見し得ない結果に対しても、職業上の知識経験に基づき予見し、結果発生防止のために適切な対応を取ることが可能であり、またそうすべきでもあるからである。
なお、「業務」とは、職業的に反復継続している仕事のことであり、職業的運転手が休日にマイカーを運転する行為は「業務」とみなされない。このような場合は、私的な運転者と同様だからである。ただし、職業運転手としての技能があることを考慮すると、一般の日曜ドライバーの場合よりも重過失が認定されやすいであろう。
いずれにせよ、過失犯は通常、反社会性向が低く、一過性のものであるから、一般的な重過失犯については「保護観察」で足りると考えられる。
ただし、病的なほどに著しく注意を欠いた場合や、同種過失行為を繰り返す過失累犯は「第一種矯正処遇」に付する必要があろう。また業務上過失犯の場合は高度の注意義務に違反した反社会性に照らし、やはり最大で「第一種矯正処遇」が相当である。
ところで、過失犯の中で最も多いのが、いわゆる交通事故、すなわち自動車運転過失犯である。公共交通事故を含めた交通事犯をめぐる諸問題に関しては後の章で改めて取り上げるが、「犯則→処遇」体系の下では、自動車運転過失とその他の過失とをことさらに区別することはしない。
すなわち、非業務上の自動車運転過失については、重過失の場合に限り一般的な過失致死傷犯として、業務上の自動車運転過失については、軽過失の場合を含めて業務上過失致死傷犯として処遇される。