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犯則と処遇(連載第23回)

2019-01-16 | 犯則と処遇

18 財産犯について

 財産犯は、所有権を神聖不可侵の権利とみなす資本主義社会においては、他人の所有物を盗む窃盗行為を典型例として最も主要な犯罪類型であるが、貨幣経済が廃される共産主義社会においても、他人から財物を不法に取得する行為は犯則行為となる。
 
 とはいえ、貨幣経済下における財産犯の大半が金銭の不法領得行為であるから、貨幣経済が廃されれば、財産犯の発生件数は激減すると予測される。美術品のような物品の窃盗のようなものですら、その動機の多くはその貨幣価値・交換価値を見込んでのことであるから、貨幣経済の廃止は、そうした高価値物品に対する不法領得行為をも激減させるであろう。

 さらに、現代的な情報社会において激増しているコンピュータの不正使用のような情報犯に関しても、重大な情報犯の多くが口座からの金銭の窃取や恐喝など金銭目的であることを考えれば―その意味では、情報犯≒財産犯である―、貨幣経済の廃止はこの種の情報犯の主要な動機を消失させることになるから、情報犯の顕著な減少を導き、情報セキュリティーの面でも大きく寄与するであろう。

 こうして金銭を目的とする財産犯が激減するとはいえ、美術品のような物品の不法取得行為は単にそれを所持していたいという動機からも行われるから、貨幣経済の廃止が財産犯の完全な撲滅を導くわけではない。そのため、窃盗・詐欺・横領といった典型的な財産犯の類型は、「犯則→処遇」体系の下でも維持される。
 ただし、共産主義社会にあっては、所有権はもはや神聖不可侵ではなく、所有という観念よりも、ある物品を所持しているという事実を尊重する占有権に重点が移る。ここでいう占有とは合法的な占有であり、他人所有の物品を所持する窃盗犯の占有のような不法な占有は論外である。

 その点、「犯則→処遇」体系の下では、財産犯に対する第一選択の処遇は、被害物品の没収である。これは、犯則行為によって得た不法な収益を犯人―犯人から事情を知りつつ転得した者も含む―から剥奪した上、本来の正当な権利者に返還するという最も単純明快な処理方法である。
 ことに、いわゆる万引きのように被害がごく些少の場合は、没収のみで十分である(後に見るように、被害者―加害者間の「修復」という一種の調停プロセスも踏まれる)。ただし、被害は些少でも、再犯者の場合は、保護観察に付する必要性がある。
 一方、没収を執行しようにも、犯人が収益を消費し尽くし、手元に残っていない場合もある。そのような場合に、代替的な懲罰目的で矯正処遇を課することはできない。しかし、不法に取得した他人の財産を消費し尽くすという被害回復を困難にする不法収益利用行為を別途の犯則行為とし、矯正処遇を課することはできる。

 財産犯をめぐるより困難な問題として、執拗に同種の財産犯を反復する累犯者への対応であるが、これについては、「累犯問題」という項目の下、章を改めて取り上げることにする。

 ところで、財産犯の中でも暴行・脅迫を手段とする強盗は、犯行渦中で傷害や殺人に転化する恐れもある人身犯的な財産犯であり、単純な窃盗や詐欺等とは本質を異にする。このような人身犯的財産犯については、没収や保護観察では足りず、第一種ないしは第二種矯正処遇を要することになるだろう。
 
 なお、財産犯全般について言えることだが、財産犯は一過性のものも多く、財産犯の中で反社会性向が強いのは累犯者にほぼ限られるから、第三種矯正処遇を課する必要性は、多くの場合、認められないものと考えられる。

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