ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

犯則と処遇(連載第26回)

2019-01-18 | 犯則と処遇

21 組織犯について

 単なる共犯現象を超えた犯罪の組織化、すなわち組織犯罪はすぐれて現代的な犯罪現象である。しかも、現代の犯罪組織はほぼ例外なく合法・違法の双方にまたがるビジネスを展開する経済組織でもある。それはしばしば合法的な資本や公権力とさえも直接・間接に結びついている。

 こうして現代的組織犯罪は、資本主義経済の地下部門を成す構成要素であるとさえ言えるのであり、その「根絶」は資本主義経済体制そのものにメスを入れない限り不可能である。その意味では、貨幣経済を廃した共産主義経済への転換が、組織犯罪の根絶へ向けた抜本策ということになる。

 そうはいっても、共産主義経済下でも、組織的な犯則行為への対策が全く不要ということにはならないが、「犯則→処遇」体系の下では、組織犯対策にあっても刑罰は用いず、矯正処遇を中心とした対策が適用される。

 組織犯対策というと、特別法を制定して対処することが一般的であるが、法定主義という観点からは、特別法へ飛ぶ前に、一般法上での対策が先決である。
 その一つは、共犯に関する一般的な規定の活用である。特に、従共犯の中でも共謀犯の規定は、共謀された犯則行為の実行そのものは担わなかった組織の構成員のほか、準構成員や外部の協力者まで一網打尽にできる利点があることから、組織犯対策上強力な武器となり得る。

 さらに進んで、不法な組織を結成し、またはこれに加入すること自体を犯則行為として規定することも必要である。
 これは組織犯対策の予防的な武器であるが、同時に事実上不法組織の定義条項ともなるものである。すなわち、本規定の下に結成や加入が禁じられる組織とは、団体の活動として継続的に犯則行為を実行するための団体である。
 「継続性」を要件とすることによって、一回的な犯則行為を実行するために組織されたグループや本来合法的な活動をするために組織された団体がたまたま組織ぐるみで犯則行為を実行したような場合は不法組織には該当しないことになる。

 さて、組織犯の犯則行為者は通常、反社会性向は高いも病理性は低い者であるから、その処遇としては最大でも第二種矯正処遇を相当とするが、不法組織に加入した者の中には弱味を握られて消極的に引きずり込まれたような者もあり得ることから、保護観察相当の場合も認められる。

 以上は言わば総論的な組織犯対策であるが、各論的な対策として、特別法としての不法組織法の制定も必要である。
 不法組織法の核心は、組織そのものの強制解散・非合法化措置である。これは先の不法組織に関する規定とも連動しながら、組織そのものを消滅させる措置として究極的な組織犯対策となるものである。
 強制解散の主たる対象は組織そのものであるが、関連企業や組織の隠れ蓑として設立された各種団体も含まれ、法人格を取得している場合はその剥奪と資産没収にも及ぶ。
 このように、強制解散措置は個人であれば死亡宣告に匹敵する強力な効果を伴うものであるから、適正手続きを保障するためにも厳正な司法手続によるのでなければならない。

 一方で、組織的犯則行為者の更生援護も大きな課題となる。かれらの場合は病理性は低い反面、不法組織を事実上の“職場”とし、犯則行為がまさに“職業”と化しているため、犯則への固執性が強い。そこで、更生援護を通じて各自の適性を生かした正業への“転職”を支援していくことが重要となる。

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犯則と処遇(連載第25回)

2019-01-18 | 犯則と処遇

20 累犯問題について

 財産犯、中でも窃盗は古くから、短期間で同一または同種の犯行を繰り返す累犯が多く、また放火犯や一部の性的事犯、薬物事犯にも、累犯がしばしば見られる。こうした累犯問題こそが、刑罰の目的を教育に求めんとする教育刑論を台頭させた要因でもあった。
 しかし、教育刑論も刑罰制度が本質的に持つ応報的な要素を完全に払拭できず、限界を露呈してきたことから、「矯正悲観論」を生み出し、再び応報刑主義への反動的揺り戻しを招く一因となった。

 たしかに、累犯者の中には矯正困難な者も含まれていることから、矯正悲観論の象徴となりやすいことはたしかだが、それは矯正科学の遅れのゆえであって、そうした遅れをもたらしているのもまた、刑罰制度なのである。その意味で、累犯問題は刑罰制度自身の影法師でもある。

 その点、「犯則→処遇」体系の下では、格別の累犯対策というものは必要としない。それは、更新付きターム制を採る「矯正処遇」の制度自体に累犯対策が組み込まれているからである。すなわち対象者の再犯の恐れがなお除去されていないと判断されれば矯正タームが更新され、実効性のある科学的な矯正プログラムが課せられるからである。

 特に、窃盗を執拗に繰り返す者に対しては、精神疾患の一つに位置づけられている窃盗症の治療が必要であるし、放火累犯者も病的な放火癖の治療が必要なケースが多いと考えられる。こうした病的累犯者に対しては、第三種矯正処遇Bを課して、治療的な集中的処遇を徹底する必要がある。
 なお、性的累犯者の場合も、行動療法などを含めた第三種矯正処遇の対象となるが、前にも述べたとおり、専門医の厳正な診断に基づく薬物による化学的去勢措置もやむを得ない場合があるだろう。 

 総じて、累犯に対しては、矯正処遇を終了した後の更生援護も重要な課題となる。そうした更生援護の充実・成功をもたらすには、社会の構造が大きく変わらなければならない。
 すなわち、更生を妨げ、人を再犯に走らせる究極的要因となる犯歴者への差別を克服し、かつライフコースによって制約されず、人生のやり直しがより容易となるような社会体制を構築することである。

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