ザ・コミュニスト

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比較:影の警察国家(連載第20回)

2020-11-08 | 〆比較:影の警察国家

Ⅰ アメリカ―分権型多重警察国家

3‐1:州警察集合体の補完性

 アメリカは連邦を構成する各州が邦(state)を名乗るため、州がまさに一個の小さな国として、連邦の相似形のような警察集合体を擁する構制を採っている。ただ、日常的な警察活動は自治体警察や郡保安官が担い、かつ連邦全土に適用される連邦法の執行は連邦警察集合体の管轄であるので、その中間に入る州警察集合体の役割は補完的である。
 そうした州警察集合体の中核的な機関は、州警察(State police)である。現在、全米49州に州警察または州警察相当機関が設置されている。例外として、島嶼州であるハワイ州は州警察を持たず、州都のホノルル市警察のほか、三つの郡警察が設置されているのみである。
 州警察の構制も州ごとにまちまちであるが、今日、多くの州では公共安全省(Department of Public Safety)と呼ばれる州官庁が所管する構制が標準化している。公共安全省は、連邦レベルの新制度である国土保安省の地方版とも言える治安官庁であり、州における警察集合体を束ねる要ともなっている。
 州における警察集合体を形成するもう一つの要素として、道路警邏隊(Highway patrol)がある。これは交通警察に相当するが、文字通りに交通警察そのものであるタイプと、如上の州警察と同等の機能を果たすタイプとがあり、それも州ごとに異なっている。
 州における警察集合体を形成する三つ目の要素として、州独自の犯罪捜査機関となる州捜査総局(State bureau of investigation:SBI) が設置されている州もある。言わば、FBIの地方版である。
 その点、テキサス州は、全米でも最古の州法執行機関として1835年設立のテキサス・レンジャー(Texas Ranger)―現在は公共安全省の一部門―が長らく州捜査機関の役割を果たしてきたが、2009年に公共安全省の部門として、犯罪捜査部(Criminal Investigations Division)が新設され、錯綜してきている。
 さらに、複雑なことに、州によっては州全域を管轄する保安官や公安官(constable)といった伝統的な法執行の制度を維持していることもあり、その役割・権限もまた州ごとに異なるため、州の警察集合体をいっそう錯綜させている。
 また、冒頭で述べた通り、各州はそれぞれが小さな国であるため、連邦政府と同様に、州政府が様々な独自の省庁を擁し、各省庁がそれぞれの所管法を執行する捜査部門を備えることも増えており、その点でも、以前に見たような錯綜した連邦レベルの警察集合体の相似形が全米各州でも展開し、蜘蛛の巣状の警察網が形成されている現状である。

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犯則と処遇・総目次

2020-11-08 | 犯則と処遇

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前言 
ページ1

1 序論‐「犯罪」と「犯則」(と「反則」) ページ2

2 犯則行為に対する責任 ページ3

3 責任能力概念の揚棄 ページ4

4 法定原則 ページ5

5 処遇の種類 ページ6

6 矯正処遇について(上) ページ7

  矯正処遇について(下) ページ8

7 矯正センターと矯正スタッフ ページ9

8 更生援護について ページ10

9 保護観察について ページ11

10 少年の処遇について ページ11

11 矯導学校について ページ12

12 教育観察について ページ13

13 未遂犯について ページ14

14 共犯について ページ15

15 過失犯について ページ16

16 生命犯―生と死の自己決定について(上) ページ17

   生命犯―生と死の自己決定について(中) ページ18

   生命犯―生と死の自己決定について(下) ページ19

17 性的事犯(上) ページ20

   性的事犯(下) ページ21

18 財産犯について ページ22

19 薬物事犯 ページ23

20 累犯問題について ページ24

21 組織犯について ページ25

22 汚職について ページ26

22´  経済事犯について(準備中)

23 交通事犯(上)―自動車事故について ページ25

   交通事犯(下)―公共交通事故について ページ26

24 思想暴力犯について ページ27

25 反人道犯罪について ページ28

26 刑事司法から犯則司法へ ページ29

27 犯則捜査について ページ30

28 犯則捜査の鉄則 ページ31

29 人身保護監について ページ32

30 検視監について ページ33

31 監視的捜査について ページ34

32 出頭令状について ページ35

33 被疑者聴取の法的統制 ページ36

34 被疑者の身柄拘束について ページ37

35 現行犯人の制圧について ページ38

36 時効について ページ39

37 真実委員会について(上)―招集 ページ40

   真実委員会について(下)―審議 ページ41

38 矯正保護委員会について ページ42

39 少年司法について ページ43

40 不服審及び救済審について ページ44

41 修復について ページ45

42 社会病理分析について ページ46

43 特別人権裁判について ページ47

44 防犯について ページ48

45 復讐心/報復感情について ページ49

46 被害者更生について(準備中)

結語 ページ50

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