Ⅳ ドイツ―分権型二元警察国家
1‐1:州警察の集権性と統合化
ドイツの州警察は連邦首都ベルリンに、歴史的な旧ハンザ同盟の一員として自治権を保持してきた二つの自由ハンザ都市ハンブルグ、ブレーメンを加えた三つの州級都市(都市州)を含む計16の州すべてに各一個ずつ設置された警察機関である。
そのうち西部11州の警察は1990年の東西ドイツ統一前の旧西ドイツ時代の州警察の継続であるが、旧東ドイツ(ドイツ民主共和国)に属していた東部5州の警察は統一後に改めて創設されたものである。
旧東ドイツは高度な社会主義中央集権国家であり、そもそも自主権を持つ州制度自体が存在しなかったため、警察も一元的な国家警察であったところ、統一後に改めて創設された5州(正確には復活)それぞれに州警察が置かれた経緯がある。
ちなみに、旧東ドイツの国家警察は正式には人民警察(Deutsche Volkspolizei:DVP)と称されたが、犯罪の少なさから刑事警察は未発達であった分、警備警察部門である準軍隊的な内務省兵舎部隊(人民警察機動隊)が肥大化し、かつ秘密政治警察・国家保安省(シュタージ)と緊密に連携するなど、DVPは「影」でなく、公然たる警察国家の象徴であった。
統一後、旧東ドイツ人民警察も一部吸収合併しつつ、16個にまとめられた州警察は、自治体警察の補完的な存在であるアメリカの州警察とは異なり、地域警察、刑事警察、警備警察としての主要な警察機能すべてを併せ持つ自己完結型の警察であり、州単位では集権性の強い警察機関となっている。
その点、旧西ドイツでもかつては主要な都市に独自の自治体警察が置かれていたところ、1970年代の警察制度改革により、州警察に吸収されていき、現在も一部残存している自治体警察の任務は行政法規違反等の軽微事案の取締まりにほぼ特化している。
ただし、集権警察といっても、政治的な監視と取締りを担う公安部門は州警察内に存在せず、公安は、後に改めて見るように、連邦と州のそれぞれに二重的に設置された憲法擁護庁がこれを中心的に担う役割分担がある点で、公安警察機能にまで及ぶフランスの国家警察や日本の都道府県警察とは異なっている。
一方、州警察はその警備警察部門である機動隊(Bereitschaftspolizei:BePo)を通じて、一定の統合運用もなされる。すなわち、大規模な騒乱等が発生した場合は、他州の機動隊が応援部隊を迅速に派遣できるよう、機動隊はその編制や装備が全州で規格化されている。
同時に、機動隊は街頭での戦闘も想定されるその活動任務からして、軍隊に準じた編制を持ち、百から数百人単位の部隊に分かれて駐屯し、即応態勢が採られている。これは、各国で進む警察の軍事化のドイツ的現れでもある。
また、連邦警察も各地に即応部隊を駐屯させており、大規模な騒乱等に際しては州警察の機動隊と合同で対処する態勢にあるため、その限りでは州警察の統合を超えた連邦警察との統合運用も進んできている。この傾向は、「テロとの戦い」テーゼの浸透により、強まっている。