もっと言えば、昨年春の公開時に観に行きたかったのだけど、ついつい観逃がしてしまっていた。
なぜ観たいと思ったのだろうと言うと、あの、池脇千鶴さんを見つめる綾野剛さんの写真を視た時、気持ちがそそられた。具体的にどうこうではなく、そう感じた。
映画は、あることがきっかけで仕事を辞め函館のアパートで独り暮らしをする達夫が、パチンコ店で出会った拓児に誘われ彼の家に向かう。そして、彼の姉、千夏と出会う。2人はやがて互いに惹かれ合う。それでも、千夏には素直に達夫に向かっていくことは出来ない。そして、達夫も。この辺りは物語の核になる部分なので、あまり踏み込まないようにしたい。いや、僕が綴る言葉ではとても表現しきれないから…
綾野剛さんは、何かを抱えて動けない、けれども、千夏と出会ったことで変わろうとする達夫の微妙な心情を、彼の持つ雰囲気以上のもので演じていた。彼が演じたからいいというのはあるけれど、原作、そして脚本により作り上げられた達夫が綾野剛さんの演技を通じ確かな像を持ったと言ったらいいだろうか。これも、言葉では言い尽くせない。
池脇千鶴さん、「体当たりの演技」なんて書いたところで彼女がこの作品に込めた思いの足元にも及ばないだろう。自分の置かれた境遇に荒みつつも、芯の純粋さを失っていないと思われる千夏に達夫が惹かれる瞬間、そこにその純粋さが垣間見えた。千夏が高橋和也さん演じる中島に抱かれる…というより、犯られると言った方がいいだろうか、達夫に心を寄せている千夏が中島を受け入れざるを得ないそのシーンが切なくて、千夏と達夫が抱き合うシーンに、互いに求め合う、いや、必要としていることを強く感じた。
菅田将暉くん、僕は彼を『泣くな、はらちゃん』、『35歳の高校生』、そして『ごちそうさん』と、テレビドラマでしか観たことがないけど、前2作、それも続けて放送された2作で全く異なる役柄を魅力的に演じられていた。そして、『ごちそうさん』については多くの方がご存じだろう。自転車の乗り方、たばこの吸い方、飯の食い方などなど、拓児ってこんな奴なんだなと思う。そして、彼も姉と同じように芯の部分に純粋さを保っている。
函館の街の、華やかさとは一線を画した荒んだ場所で、荒んだもの同士が出会い、互いに自分にとって大切な存在だと思い、だからこそ、その相手を守ろうとする。人を好きになるってそういうことなんだろうと、改めて思った。
好き嫌いの別れる映画だと思う。でも、タイトルの通り「そこのみにて光輝く」映画だ。
そう、上映後のプロデューサーの星野秀樹さんと、脚本の高田亮さんのお話も楽しかった。観客の方からの質問には「?」と思うものもあったけど、お2人ともその質問を上手く膨らまして裏話をしてくれた。
そんな映画が昨年のキネマ旬報日本映画ベストワンと、主演男優賞、監督賞、脚本賞を獲得したのは納得できる。
一方、某映画祭についてホームページで受賞結果を確認すると、優秀作品賞にすらノミネートされなかったものの、こちらでは池脇千鶴さんが優秀主演女優賞の1人に入り、少しはまともな部分もあったんだと思った。
まあ、観る上で賞などは関係ない。僕がいいと思えばいいんだから。昨年観逃がしたことを改めて後悔し、ここで観れてよかったと思う。
そして、呉美保さん、高田亮さん、星野秀樹さんによる次回作『きみはいい子』が6月末から公開されるという。トーク終了後に予告編が上映されたけど、こちらも観てみたい。