踊る小児科医のblog

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食品の放射能汚染その後 キノコとタラはもう大丈夫?

2012年11月06日 | 東日本大震災・原発事故
 「食品の放射性物質 年齢の数字が目安か キノコとタラに注意」と書いたのは2011年12月・2012年1月号でした。その後、マダラが100Bq/kgの基準値オーバーを繰り返して出荷制限に追い込まれたことは御存じの通りです。11月から解除になりましたが、基本的な状況は昨年から何ら変化していません。

 マダラに関しては、100を切ったから良い悪いという問題ではなく、次の2点について全く分かっておらず、県も関係者もマスコミも解明する気が全然ないということ自体が最大の問題です。

1)マダラの回遊ルートや範囲がわかっておらず、汚染度の高かった個体が福島や宮城沖から来たのか近海で汚染されたのかがわからない。
2)それに関連して、海底の汚染状況がほとんど調査されていない。

 マダラは海底に近いところに棲息していて食物連鎖の最上位に位置しているため、他の魚と比べて格段に海底汚染の影響を強く受けるようです。個人的な推測としては、事故後に莫大な量(詳細は不明のまま)が放出された福島の海洋汚染に加えて、広い流域から放射性物質を海に流し続けている阿武隈川の河口~仙台湾の海底汚染が今後更に蓄積されていくのではないかと懸念していますが、具体的なデータの裏付けはなく、解明される見込みもなさそうです。

 ですから、マダラは出荷制限が解除されて「安全宣言」が出されても依然として要注意であり、八戸港の出荷前検査も大きな進歩ですが、検査値までは表示されないようなので、子どもに安心してお勧めすることはできません。津軽海峡や日本海なら大丈夫だとは思いますが、引き続き検査情報のチェックを続けていく必要はあります。昨年と同様に<年齢の数字>を目安に。。

 キノコに関しては「岩手県南は要注意、県北はたぶん大丈夫」と書きましたが、10月に入ってから少し様相が変わってきました。

 十和田市 チチタケ   Cs137 120 Cs134 ND Bq/kg
 階上町  ホウキタケ  Cs137  98 Cs134 18 Bq/kg
 青森市  サクラシメジ Cs137 107 Cs134 ND Bq/kg

 十和田市、階上町に続いて青森市にも野生キノコの出荷制限が指示されました。ただし、ここで注意してほしいのはセシウム(Cs)137と134の割合です。福島原発事故では137:134がほぼ1:1の割合で放出されました。1年半経って、Cs137(半減期30年)に比べてCs134(半減期2年)の方が多く減少しているとしても、上記のデータはアンバランス過ぎます。

 この結果から推測されることは、1950-60年代の核実験による汚染やチェルノブイリ由来が7~8割、福島原発事故による汚染が2~3割程度であり、過去40年以上にわたって私たちは放射能キノコを食べ続けてきたという事実です。過去にはもっと汚染されて時期もあったのに、検査してないからわからなかった。フクシマ以前の基準はチェルノブイリの時に定められた370Bq/kgだったし、国内のキノコなど誰も気にかけていなかったので、フリーパスで市場に出回っていた。

 もちろん、階上のデータでわかる通り、フクシマの影響が無いわけではなく、過去の汚染に更に上乗せされた状況にあります。山林の除染、特に青森県のような比較的汚染度の低い地域の除染がなされる見込みはゼロ(不可能)ですから、今後もCs137がゆっくりと減るのを待つしかなさそうです。(60年で1/4にはなりますが…)

日本脳炎と不活化ポリオ予防接種との関連を疑われた死亡事例報道についてのコメント(11/1改訂版)

2012年11月06日 | 予防接種
 10月中旬から、日本脳炎と不活化ポリオ接種後にみられた死亡事例について報道されています。詳細な情報が手元にない段階で、因果関係の証明や否定は元々非常に困難だという前提の元に、コメントしてみます。(10/26に書いた文章に、10/31の厚労省委員会の結果を受けて加筆修正しました。)

1)日本脳炎 10歳男児 10月17日 接種後5分で心停止、2時間半で死亡
 このケースは接種後5分には心肺停止していたと伝えられていますので、予防接種という行為との直接的な関係が考えられますが、アナフィラキシー(強いアレルギー反応)による経過としては少し早すぎるように思われます。

 この年齢で「接種を嫌がって逃げたところを待合室で取り押さえて接種した」ということと、何らかの疾患で薬を飲んでいたという情報から、軽度の発達障害などの基礎疾患があったと考えられますが、死亡との関係も不明です。不整脈を起こしやすい疾患や併用薬の副作用も疑われますが、原因やワクチンとの因果関係がこれ以上明らかになることはないと思われます。

 このやや特殊な1例だけを根拠に日本脳炎の接種全体を見合わせることにはならないものと予想されます。(10/31の委員会でも同様の判断でした)

2)日本脳炎 10歳未満の子ども 7月 接種後7日目に急性脳症にて死亡
 接種翌日から感冒症状、2日後に発熱、痙攣の重積、7日目に死亡。剖検はしておらず、ワクチンとの因果関係は否定できないものの、夏かぜのウイルス感染による脳炎・脳症などの紛れ込み事故の可能性が強そうに思われます。基礎疾患として甲状腺機能低下症、てんかん、発育遅延があったとのことです。

 日本脳炎は2009年に新しいワクチンで接種が再開されてから1000万接種以上で関連が疑われた死亡事例はありませんでした。なお、この2例で使用されたワクチンは阪大微研製で、当院で採用している化血研ではありません。

 また、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)はウイルス感染やワクチン接種後などに生じる原因不明のアレルギー性脱髄疾患で、現在のワクチンはより安全性が高められたはずですが、引き続き発生頻度(1/131万)に注意は必要です。

3)不活化ポリオ 6ケ月~1歳の女児 9月 接種後18日で嘔吐、翌日死亡
 これは明らかに「紛れ込み事故」と断言できます。不活化ワクチン接種後ずっと元気だったのに18日目にいきなり症状が出ることは考えられません。

 現在、日本は乳児死亡率が世界で最も低い国の一つですが、それでも千人あたり2~3人、全国で毎年100万人生まれた赤ちゃんのうち2000~3000人(毎週50人前後)が1歳前に亡くなっています。その多くは先天的な重い病気や小さな未熟児などですが、元気に育っていた赤ちゃんが突然亡くなる「乳幼児突然死症候群(SIDS)」という病気により、かつての年間500人からここ数年は年間150人程度に減ったものの、全国で毎週3人前後の赤ちゃんが突然死しているのです。(SIDS の最大の要因は父親・母親の喫煙です)

 今回の3例はSIDSではなく年長児も含まれていますが、様々なウイルス感染による脳炎・脳症や心筋炎、それまで診断のついていなかった病気などによって、元気な子どもが急激に重症化したり死亡したりすることも稀にあります。

 特に乳幼児期は多くの予防接種を短い間隔で接種している時期ですから、接種後の一定の期間に重篤な症状が出たり死亡した例が発生することは避けがたく、ワクチンとの関連が強いのか、何らかの病気によるものかを区別することは困難になります。そこで、定期接種であれば因果関係が不明な紛れ込み事故も含めて予防接種の有害事象として救済措置がとられることになるのです。

 ポリオの生ワクチンから不活化ワクチンへの切り替えの際に、マスコミは「危険な生ワクチン」「安全な不活化ワクチン」というレッテルを貼って混乱を助長しました。これまでこの院内報でもお伝えしたように、ワクチンに限らず医療には「ゼロリスク」というものはありません。不活化ワクチンでも非常に少ないとはいえ他の予防接種と同程度の頻度で急性の副反応や、ワクチンと関係のない「紛れ込み事故」が起こり得ることを理解した上で、病気にかかった場合の大きなリスクも考慮して判断していただければと思います。

 日本脳炎に関しては、人から人への感染が無いことと、青森県内にいるなら感染のリスクは非常に低いことから、もし心配なら少し様子を見てから接種しても問題は生じないでしょう。ポリオは未接種者が多く輸入感染による流行が懸念されていることに加えて、今回の死亡例と接種との因果関係は否定的なことから、接種を見合わせるべきではありません。

リンク
第7回予防接種部会日本脳炎に関する小委員会資料(2012.10.31)(厚生労働省)

院内報2012年8・9月号と10・11月号を掲載しました

2012年11月06日 | こども・小児科
毎回発行が大変遅くなっておりますが、8・9月号および10・11月号をHPに掲載しました。

くば小児科クリニック院内報
http://www.kuba.gr.jp/info/ih.html

2012年10・11月号(PDF)
 院内版感染症情報~2012年第44週(10/29~11/4)
 インフルエンザ予防接種 10月から始まっています
 不活化ポリオ 単独は9月から 四種混合は11月から
 ロタウイルスワクチンの接種を開始します 11月から
 予防接種との関連を疑われた死亡事例報道についてのコメント(日本脳炎・不活化ポリオ)
 11月~12月の診療日、急病診療所、各種教室、相談の予定
 11月の予定表(PDF)

2012年8・9月号(PDF)
 食品の放射能汚染その後 キノコとタラはもう大丈夫?
 原発ゼロでも核燃サイクル堅持を喜ぶ青森県 中間貯蔵も焦点
 太陽光発電を始めました
 津波の被害を最小限にするために 将来の市街地の縮小を