ベラルーシのグラフの引用元は、
児島龍彦:チェルノブイリ原発事故から甲状腺癌の発症を学ぶ.医学のあゆみ, 231(4): 306-310, 2009.
このグラフは、5月までに発表になった福島県の小児甲状腺がん=細胞診で「疑い」+手術で「確定」の人数を一次検診受診者数で割った数字(受診集団のその時点での有病率)を、先行調査ではスクリーニング効果を10年と仮定して10で割り、本格調査では受診間隔の2.5年で割ったものです。
解釈とコメントについてはブログ既報(その1)
1)甲状腺がん8→15例(5/18) 発症率4.1~8.7人/10万人(2.5年で) 「増加」はほぼ確実に 2015年06月03日 http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/9484f13f2d01ec85504b104e500d079d
解釈とコメントについてはブログ既報(その2)
2)福島県甲状腺がん 本格調査>先行調査の経緯を発表時の数値で検証してみた 2015年06月05日 http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/75c50cf497db6f29a441efd93159cbd1
本格調査の受診間隔を2.5年としたが、2年間隔の人が多いはずなので過小評価している。その理由は「なるべく低く見せたいから」ではなく、過小評価しても高く出るなら確実に増加と判断できるから。。スクリーニング効果の「10年」については誰も言及していないが、仮定としては適当な数字だろう。
グラフの傾きは増えているスピードとは全く関係なく、検診が順調に進んで「疑い+確定」の人数が明らかになっていることを示しているだけ。時間がたてば先行調査のようにプラトーになっていく。ただし、本格調査のグラフがクロスして更に上に向かっていることで「増加」と読み取れる。
前記ブログにも書きましたが、本格調査は5月の時点で、
一次判定率 121997/148027=82.4%
二次受診率 593/1043=56.9%
であり、かけ合わせると46.9%
単純計算で、8.7人/10万人という発症率になる。
比較対象としている2枚目のグラフがベラルーシの甲状腺がん発症率。先行調査の3.7、本格調査の4.1という現時点での数字が、ベラルーシの95年の小児と思春期に相当するレベルになっている。本格調査で予想される「8人」という数字はベラルーシの思春期の2000年頃に相当。
この増加傾向が3巡目、4巡目にも続いていくのか、低下するのか、誰にもわからないが、現時点での判断は「先行調査でも多発、本格調査で更に増加」か「先行調査は判定不能、本格調査で増加」のどちらかで、「先行調査では増えていない」と断言することは不可能。
DAYS JAPANの特集記事は、この本格調査(2巡目)ではなく、先行調査の111人(確定98人+疑い13人)=記事では手術して良性だった1例を含めて112人について、評価部会のまとめで「数十倍のオーダーで多い」と触れられた点について、
比較は津金氏が第4回評価部会に提出した資料「2001-2010 年のがん罹患率(全国推計値)に基づくと、福島県において18 歳までに臨床診断される甲状腺がんは2.1 人(男性0.5、女性1.6)、受診率は約80%なので受診者集団からは約1.7 人」
http://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045b/kenkocyosa-kentoiinkai-b4.html
この1.7人と112人を単純に比較すると、65.9倍。これを「統計の性質上は試算なので『数十倍のオーダー』と丸めた」とのこと。津金氏は「スクリーニング効果だけで解釈することは困難」「別の原因があると解釈する方が合理的」「過剰発生か、過剰診断のいずれか」「個人的には後者と…」
過剰診断でないかどうか、宮内昭医師はいずれも手術適応通りで過剰診断ではないと。この点はそうだろうと思っていた。一人一人の患者さんについて、この子はスクリーニングから来たからとか、症状で発見されたからといって判断を変えるわけがない。医師ではない火山学者まで口を挟んでいたが。
清水一雄医師へのインタビュー(おしどりマコ氏)は面白い。同様に「過剰診断ではないことは診たものが一番わかっている」と。3県の調査(2012)についても、県全体のような調査を提案したが却下された」。地の文でも判定割合だけでなくがんの発生を調査しなければと。ここがポイント。
山下俊一「検査で発見されたのは、原発事故とは直接的な関係が無い『自然発症の小児甲状腺癌』であり、前述の通りスクリーニング効果であると評価しています」首相官邸(平成26年2月12日)
http://www.kantei.go.jp/saigai/senmonka_g62.html
第19回福島県「県民健康調査」検討委員会 配布資料
http://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045b/kenkocyosa-kentoiinkai-19.html
甲状腺検査に関する中間取りまとめ [PDFファイル/183KB]
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/115335.pdf
前述のように「本格調査が先行調査を大きく上回りそう」で、現時点での判断は「先行調査でも多発、本格調査で更に増加」か「先行調査は判定不能、本格調査で増加」のどちらか。DAYS JAPAN記事、評価部会まとめでも「先行調査の多発は過剰発生か過剰診断」。だが過剰診断は否定的。
本格調査で気になる要因は、受診率の低下がバイアスになる可能性。不信感から県の検診を受診せずに他の医療機関を受診している人も相当数いるようだが、その影響で高く/低くなる可能性はあるだろうか。検診不要説は排除された。不信感は別にして、まずは受診し続けないと。。