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国内でもエイズ大ブレイクの危機~新たな予防指針策定へ

2005年05月20日 | こども・小児科
2月に「エイズ患者・感染者が年間1000人を超す」という話題を紹介し、その中で国がエイズを「性感染症」として位置づけていないこと(下記の熊本氏の論文参照)や、先進国の中で唯一増加し続けている国であり、お隣中国におけるブレイクと一緒にエイズ蔓延の危機にあることなどを書きました。

性感染症としてのエイズ(性の健康医学財団)
エイズ/性感染症をめぐる問題点(熊本悦明)

hunger free world の「特集 HIV / エイズの現在」によると、現在HIVに感染している人の推計数は4200万人(2000年末)、2002年に新たにHIVに感染した人の推計数は500万人(毎日1万3000人以上)、2002年にエイズで死亡した人の推計数は310万人(毎日8000人)で、そのうち240万人がサハラ以南のアフリカに集中しています。
(ちなみに、タバコ病による死者も毎年500万人と推計されています。)

世界で最も感染者が多い(約500万人)南アフリカ共和国からのリポートによると、
数字で見る南アフリカのエイズ危機(WASHINGTON 通信)
・国民全体の約12%が感染している。
・妊婦の4人に一人が感染している。
・性的にアクティブな年代の約22%が感染している。
・10万人の赤ん坊が感染している。
・毎日約700人ずつ新たな感染者が増えている。
・国民の平均寿命は現在約50歳だが、15年後には約40歳に落ちる。

とのことですが、これだけ深刻な数字でも日本人は「地球の裏側で起きていること」としか感じないのが普通だろうと思います。日本国内で起きていることに危機感を持ってもらうために、数字を身近なレベルに落としてみます。

「昨年1年間に新たに報告されたHIV感染者・エイズ患者数は計1165人、累積報告数は4月時点で1万人を突破」したとのことで、累積報告者の中には既に死亡した方もいると思いますが、それとは別に無症状で診断されていない潜伏期の感染者が多数いるものと考えて、
大雑把に感染者の総数を1万2000人~6万人(人口1万人~2千人に1人=0.01~0.05%)と推計してみます。(根拠はありません)
青森県は日本の「百分の一」、八戸市は24万で「五百分の一」として単純に人口比率だけで計算すると、
「青森県で120~600人、八戸市で24~120人の感染者」
という数字になります。実際には東京都や大都市圏に集中していて青森県の累積報告数は29人(0.3%)に留まっていますが、いずれは大都市と地方での感染率の差は縮まっていくものと考えられます。

厚労省でもその危機感から、
エイズ予防指針、都道府県中心に対策・厚労省検討会報告書案(日経)
>国のエイズ対策の基本となる「予防指針」の見直しを進めている厚生労働省は、
>エイズを誰もが感染リスクにさらされる「慢性感染症」と位置づけ、
>予防対策などの中心的役割は都道府県自治体が担うとする報告書案をまとめた。

という新たな予防指針を策定して対策を進めようとしているようです。「慢性感染症」というのがかえってわかりにくい曖昧な表現のように思えますが、同性愛者や「遊んでいる人」だけの特殊な病気ではなく「誰もが感染リスクにさらされる」という点を重視した転換なのだと思います。厚労省のHPには報告書案までは掲載されていないのでそれ以上のことには触れられませんが、新聞連載でも、

HIVとともに(大手小町・読売)
 心強い親の励まし(2005.5.20) 「遊んだツケ」の偏見(2005.5.19)
 発症前治療で普通に生活(2005.5.18) まさか夫が…自分も感染(2005.5.17)

というように、普通の人が普通に感染する時代になってきていることが強調されるようになってきました。別の記事では、

エイズ感染者・患者数、昨年初の1000人台(日経)
>エイズは感染から発症まで10年程度の潜伏期間があり、
>「エイズを発症した後、初めて感染に気づく」という事例が全体の約3分の一に上り、
>検査での早期発見が感染拡大の鍵とされる。

とありますが、潜伏期にある「自分はエイズとは無縁」と思っている人を検査して発見するのは至難の業であり、中高生あるいは小学生に対する性教育・予防教育が最も重要であることは間違いありません。しかし、ここで問題になってくるのは、山谷えり子みたいなわかったようなことを言う(それでいて事態の深刻さを全く理解していない)保守派の揺り戻しによって、性教育が大きく後退する危機的状況にあるということです。(やることが全く逆だ!)

タバコ問題でも同じですが、この国の指導者たちは、子どもたち、若者たち、そして多くの国民の健康や命を守るために真っ先に何をしなくてはいけないのかを、明確に示して行動に移すという簡単なことが何故できないのだろうか。別に考えなくてもいいんです。対策は示されているし、これだけ教育レベルの高い(高かった)国で、若者たちの無防備なセックスによりエイズが増え続けているということが、どれほど馬鹿げた(かつ悲劇的な)ことかさえ理解してくれればいいのですから。

新たな予防指針に沿った強力な対策を期待したいと思います。

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3 コメント

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アフリカの瞳 (Keicho)
2005-05-20 16:43:25
くばさん、トラックバック有難うございました。日本は何事に対しても危機感がないですよね。エイズもしかり。南アフリカの教訓から学ぶべきことも多いですよ。今「アフリカの瞳」というエイズを題材にした小説を読んでいますが、コレいいですよ。是非、ご一読を。
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アフリカの瞳 (くば)
2005-05-21 08:49:14
コメント&面白そうな本の紹介ありがとうございます。アマゾンで注文してみました!
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予防教育と検査で拡大防げ(毎日社説) (くば)
2005-05-27 11:47:29
社説:エイズ 予防教育と検査で拡大防げ(毎日)

http://www.mainichi-msn.co.jp/column/shasetsu/news/20050522k0000m070105000c.html

>夏には厚労省のエイズ予防指針が5年ぶりに改定される。

>検査を受けやすくすることに加え、青少年に対する予防教育を充実させるなどの

>見直しが盛り込まれる。エイズの拡大防止策を再点検し、必要な対策は直ちに

>実行に移すべきだ。中でも若い人へのエイズ教育の徹底は最優先の課題だ。

>具体的な計画作りを急いでほしい。
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