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「子どもの受動喫煙をゼロにするために 幼稚園・保育園の役割」(1/24講演抄録)

2015年02月01日 | 禁煙・防煙
八戸市医師会乳幼児保健講習会「子どもの受動喫煙をゼロにするために 幼稚園・保育園の役割」
平成27年1月24日(土)

 米国政府は「国内の子どもの13人に1人、560万人がタバコのために早死にする。助けることのできる輝ける命、次世代をタバコフリーに」というキャンペーンCMを流している。一方で、日本国内、青森県内の子どもたちは、外国人喫煙者が「喫煙天国」と感じる世界最低レベルのタバコ規制政策の中で育っている。

 2003年の健康増進法施行後、2004年には県立高校や八戸市などの小中学校が敷地内禁煙となったが、2014年に県内全ての小中学校が敷地内禁煙になるまで十年もの歳月を費やした。

 一方、より幼い子どもが通う幼稚園・保育園の状況はどの市町村でも把握されていなかったため、2014年3月に八戸市医師会で市内全施設の調査を実施したところ、敷地内禁煙化率は67.9%(幼稚園78.3%、保育園65.2%)と低く、職員の喫煙率は男性37.0%、女性1.3%であった。施設の禁煙化状況別に喫煙率を比較したところ、男女とも敷地内禁煙ではない施設で喫煙率が高い傾向にあり、女性では有意差を認めた。

 2006年の米国公衆衛生長官報告において「受動喫煙は健康と命を奪い、安全無害なレベルはなく、分煙や換気では防ぐことができない」と結論づけられ、医学的な論争は終結した。2007年のWHOタバコ規制枠組み条約ガイドラインでも「例外なき屋内全面禁煙を罰則のある法律や条例で実施すること」が加盟国に求められた。しかし、日本国内ではJTや文筆家、一部メディアなどによる「受動喫煙の害は証明されておらず、分煙で防げる」という誤ったキャンペーンが効を奏し、2014年改正の労働安全衛生法でも義務規定が外された。受動喫煙により世界で毎年約60万人、国内でも1万人以上の死者を出し続けている現状を国内でのみ否認する言動は、「ホロコーストはなかった」と主張することに匹敵する犯罪行為と言える。

 2020年の東京五輪も「飲食店で自由にタバコが吸える」オリンピックになる見込みである。

 受動喫煙とは第一には健康被害であり、喫煙により生じる健康被害は、エビデンスのレベルに違いはあれ受動喫煙でも生じると考えるのが合理的である。それ以上に重要なのは、受動喫煙は「子どもがタバコを吸うこと」そのものだということである。青森県の子どもの父親の5割以上、母親の約4分の1が喫煙者であり、小学生への喫煙防止教室の感想文を読んでも、親が喫煙者である児童は、タバコの煙が周囲にあることの危険性や疑問をそれまでほとんど認識していなかったことがわかる。

 そのような環境で育った子どもは、身体的にも精神的にも喫煙に対するハードルが低く、容易に喫煙者となり、世代を超えた悪循環が引き継がれていく。収入の低い家庭ほど喫煙率は高く、肥満や運動不足も多い。先進国と途上国との対比で見られる関係が、青森県にあてはまる。県民所得が低く、肥満や喫煙率が高く、最短命県である。この認識から出発すべきである。

 地元志向が強く、比較的低学歴・低収入で、車やショッピングセンターを好み、喫煙率・飲酒率が高い若年層を「マイルドヤンキー」と称する論考が注目を集めている。20代や未成年の喫煙率の低下傾向が顕著となり、30代~40代の喫煙率が最も高い現状は、この層と重なり合う部分が大きいものと推察される。

 2010年に提唱されたサードハンドスモーク(三次喫煙)も含め、子どもの受動喫煙をゼロにするためには、家族の喫煙率をゼロにする以外に方法はない。幼稚園・保育園の敷地内禁煙化はスタートライン以前の問題で、保育士、教師、医師など子どもに関わる人の喫煙率ゼロと、WHOの求める公共的施設の屋内全面禁煙、タバコ税増税、画像警告、広告・スポンサー禁止などの有効な規制政策を早急に実施するという簡単な解決策が目の前に存在している。

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