#ブログに掲載した内容を、県内の医師・歯科医師団体の新聞に掲載するためにまとめたものですが、最後のパラグラフは今回追加したものです。津田論文や県内における「先行調査での多発」論については時期尚早であり、最低でも三巡目の結果(あと2年半)を待たなければいけないと考えています。
「また甲状腺がんの話か」と思われるかもしれませんが、先行調査(2011~13年度)では「わからない」という結論だったものを、本格調査(14~15年度)で初めて「増加」の判断に転じたという重大な岐路に立っていると考えています。
この判断はあくまで先行調査と本格調査の比較であり、脱原発派や一部の専門家が「先行調査で数十倍も増加」と主張しているのを支持するものではありません。
本格調査の中間報告は2・5・8月に発表になっています。数字の詳細は県民健康調査HPに掲載されているので省略しますが、8月の時点で甲状腺がん「確定+疑い」が先行調査で112人、本格調査では25人に達しています。疑い例とは穿刺細胞診で陽性で、手術せずに経過観察している例であり、これまでの経緯からほぼ全例ががんだと考えて差し支えありません。
有病率(発見率)と年間の発症率を推定してみます(単位は10万人あたり)。先行調査ではスクリーニング効果を10年分と仮定し、本格調査では受診間隔を2.5年とします。
先行調査では有病率の1/10で発症率は3.7人、本格調査では有病率の1/2.5で発症率は5.9人と推定されます。ただし、本格調査で一次検診の判定率と二次検診の受診率まで計算に含めると発症率は10.4人と推定され、先行調査と比較して増加していることはほぼ確実です。(グラフは発表時の発症率の推移で、傾きには意味がありませんが、両グラフが交差することで増加と判断できます。)
この数字をベラルーシと比較してみると、3.7人は小児の94~95年のピーク、5.9人は思春期の98~99年の急上昇期、10人は思春期の2000~01年のピークに相当します。
これまで甲状腺がん患者が多数発見されてきた中で、①スクリーニング効果、②過剰診断・治療、③多発という3つの可能性が議論されました。8月発表の資料で、手術例のほとんどは従来の手術適応に沿ったものと報告され、②は否定的です。また、両調査は同じ方法で継続しているので、比較すればバイアスは相殺されます。①のスクリーニング効果を評価する手法が提起されていませんが、仮定とした10年という年数を短くすればスクリーニング効果自体が否定される方向になり、長くすれば本格調査との差がより大きくなってしまいます。残る可能性は③の多発ということになります。ここでその原因や因果関係まで論じることはできませんが、少なくとも原発事故との関連を否定することは不可能です。
私たちは医師・歯科医師の立場から、社会に対する発言には責任が求められ、判断はより慎重であるべきで、数字を客観的に判断していくべき考えます。先行調査に対する安全・危険両派の主張には矛盾が存在するため判断は保留のままとしますが、本来の目的である本格調査における増加傾向には敏感に反応すべきと考えます。
今回の推計で得られた傾向が今後どのように推移していくかを見通すことは困難であり、歴史的に確定するのは最低でも三巡目以降になると考えられます。
調査に対する信頼が失われて受診率が低下していることも大きな問題であり、早期発見・治療のためにも、信頼性を高めて受診率を維持していくことが必要とされています。B判定の基準以下でも結節(+)の場合には受診間隔を短くすることも検討すべきです。
6月に八戸で開催された高レベル放射性廃棄物シンポジウムについて詳報できませんが、日本学術会議の提言と山脇直司氏の『公共哲学からの応答 3・11の衝撃の後で』を共通理解のための基礎資料としてお勧めしておきます。再処理事業の認可法人化や、乾式貯蔵への交付金拡充など、先行きのない核燃サイクルを堅持するための姑息な政策が続々と打ち出されており、最終処分場選定は道を誤って早くも頓挫しています。国民の議論と同意、倫理、哲学なき政権が崩壊の道を辿ることは歴史の必然ですが、その際には子ども達や将来の世代に負の遺産が残されることになります。
「また甲状腺がんの話か」と思われるかもしれませんが、先行調査(2011~13年度)では「わからない」という結論だったものを、本格調査(14~15年度)で初めて「増加」の判断に転じたという重大な岐路に立っていると考えています。
この判断はあくまで先行調査と本格調査の比較であり、脱原発派や一部の専門家が「先行調査で数十倍も増加」と主張しているのを支持するものではありません。
本格調査の中間報告は2・5・8月に発表になっています。数字の詳細は県民健康調査HPに掲載されているので省略しますが、8月の時点で甲状腺がん「確定+疑い」が先行調査で112人、本格調査では25人に達しています。疑い例とは穿刺細胞診で陽性で、手術せずに経過観察している例であり、これまでの経緯からほぼ全例ががんだと考えて差し支えありません。
有病率(発見率)と年間の発症率を推定してみます(単位は10万人あたり)。先行調査ではスクリーニング効果を10年分と仮定し、本格調査では受診間隔を2.5年とします。
先行調査では有病率の1/10で発症率は3.7人、本格調査では有病率の1/2.5で発症率は5.9人と推定されます。ただし、本格調査で一次検診の判定率と二次検診の受診率まで計算に含めると発症率は10.4人と推定され、先行調査と比較して増加していることはほぼ確実です。(グラフは発表時の発症率の推移で、傾きには意味がありませんが、両グラフが交差することで増加と判断できます。)
この数字をベラルーシと比較してみると、3.7人は小児の94~95年のピーク、5.9人は思春期の98~99年の急上昇期、10人は思春期の2000~01年のピークに相当します。
これまで甲状腺がん患者が多数発見されてきた中で、①スクリーニング効果、②過剰診断・治療、③多発という3つの可能性が議論されました。8月発表の資料で、手術例のほとんどは従来の手術適応に沿ったものと報告され、②は否定的です。また、両調査は同じ方法で継続しているので、比較すればバイアスは相殺されます。①のスクリーニング効果を評価する手法が提起されていませんが、仮定とした10年という年数を短くすればスクリーニング効果自体が否定される方向になり、長くすれば本格調査との差がより大きくなってしまいます。残る可能性は③の多発ということになります。ここでその原因や因果関係まで論じることはできませんが、少なくとも原発事故との関連を否定することは不可能です。
私たちは医師・歯科医師の立場から、社会に対する発言には責任が求められ、判断はより慎重であるべきで、数字を客観的に判断していくべき考えます。先行調査に対する安全・危険両派の主張には矛盾が存在するため判断は保留のままとしますが、本来の目的である本格調査における増加傾向には敏感に反応すべきと考えます。
今回の推計で得られた傾向が今後どのように推移していくかを見通すことは困難であり、歴史的に確定するのは最低でも三巡目以降になると考えられます。
調査に対する信頼が失われて受診率が低下していることも大きな問題であり、早期発見・治療のためにも、信頼性を高めて受診率を維持していくことが必要とされています。B判定の基準以下でも結節(+)の場合には受診間隔を短くすることも検討すべきです。
6月に八戸で開催された高レベル放射性廃棄物シンポジウムについて詳報できませんが、日本学術会議の提言と山脇直司氏の『公共哲学からの応答 3・11の衝撃の後で』を共通理解のための基礎資料としてお勧めしておきます。再処理事業の認可法人化や、乾式貯蔵への交付金拡充など、先行きのない核燃サイクルを堅持するための姑息な政策が続々と打ち出されており、最終処分場選定は道を誤って早くも頓挫しています。国民の議論と同意、倫理、哲学なき政権が崩壊の道を辿ることは歴史の必然ですが、その際には子ども達や将来の世代に負の遺産が残されることになります。
先生のブログを拝読した親御さんから私へ連絡(質問)が入り 再びお邪魔させて頂きました。 日本ードイツー日本 さすがネット社会の恩恵ですね。 よろしくお願いいたします。
いくつかあるご質問のなかで私が調べられることはこちらから回答しますが 日本国内の甲状腺専門医について 結節からガンへ移行した場合の摘出手術が可能な専門医がどれほどいるのか人数を尋ねていらっしゃいます。 ご質問の方は 先生のおっしゃる経過観察というよりも手術待機と理解しており(同様の指摘の親御さんも多いです) 例えば 8月31日公表の結節が発見された2000人以上の子供がガンに移行した場合に対応できる医療システムが整っているのか 受診率の維持よりも情報の公開を望んでいらっしゃいます。
私は先行検査を受けていない子供たちと本格検査を受けていない20万人以上の子供たちのことを心配していますが なぜ このような状態になってしまったのでしょうか?
いずれにしろ 検査のデータは母集団の人数が不確定なので三巡目を待ったとしても最終的に疫学調査データとして評価される可能性も難しいように思います。
まず、私はいずれのご質問にもお答えできる立場にはないし、一般の市民以上の情報も持っていないということをご理解ください。
「経過観察というよりも手術待機」という点について、穿刺細胞診を実施する判断自体が、陽性なら手術適応となる子に限られるはずですから、そう考えても間違いとは言えませんが、実際には個別に判断は異り全例即手術ということではありませんから、かなり幅がある表現で「経過観察」と言って差し支えないかと思います。
(その割には観察期間があまりなくて殆どが手術になっていますが)
また、8月末発表の資料では「104例中97名が福島医大甲状腺内分泌外科で、7例は他施設で実施」とありますので、基本的には県立医大で手術する態勢になっているはずです。もし今後ある程度増加したとしても、他施設や仙台・東京などで対応できるはずですから、待機者が増えて手遅れになるといった心配は不要かと考えます。
先行調査・本格調査未受診の子ども達のことは誰にもわかりません。検診受診群と未受診群との間でどのような差が出てくるのかを判断するためにも、10年は必要なのではないかと考えています。
その間に、未受診群の中で進行した症例が増加する可能性も否定できませんが、受診率は低下し続けるだろうし、部外者にはどうすることもできません。
受診者、未受診者をどうやって総合的に判断するのかということもわかりません。それが最大の問題だと言えますが、表立ってはどこでも議論されていないと思います。
立場にないといえば 患者でも保護者でもない私こそ質問をする立場にないわけですけど 今回 あえて投稿させていただいたのは 直接親御さんが質問できない信頼関係の崩れこそが一番の問題ではないかと気がついたからです。 投稿する前に 直接お尋ねになってはいかがですか? と伺うと できない と返事がきますし ほとんどの方が現在の状況に関して不信感の塊になっていることに驚かされました。
一般市民以上の情報をお持ちではないことについて 情報公開がされていない事実を実感し ため息をついています。
現在はネットの発達により行政側の情報操作は不可能ですし そのためにさまざまな憶測や心配が増えてきていることを社会問題として真摯に受けとめることが重要だと思っています。
一点 私の言葉が足りなくて誤解があるようなので訂正させていただきますが 親御さんが心配しているのはー手遅れーではなくて 小児甲状腺疾患治療の経験を持つ専門医がどれほどいるのか もっと明確な表現ですと 実体験の無い医師がマニュアルにそって診察と治療を行うのではないか その質問と理解しています。
いずれにしても 子供たちが最適なサポートを受けること
家族が安全な環境で安心して暮らせることが第一だと思っておりますので また 親御さんからの質問があったときにはお邪魔させていただきます。
お世話になりありがとうございました。
重ねてお礼申しあげます。
スクリーニング自体の負担(技師、医師、時間、費用等)が今後もずっと続くことを考えると大変かとは思いますが。。
※→私自身も福島県や県立医大への不信感は当然ありますが、それとは別にして、現場のスタッフ(検査技師や医師、鈴木教授も含めて)が個々の患者さんについて恣意的な判断を下すということはありえないし、何がベストな選択かという一つの基準で動いているのが医療現場ですので、その辺りを区別して理解していただいて、結果的にお子さんの不利益にならないようにしていただければと望んでいます。
(事故直後から現在まで続くリスクコミュニケーションの失敗は県や医大側に責任があると考えていますので、信じて受診しろというのが通らないということも理解した上での老婆心(老爺心?)です。)
私は、このホームページの分析が、最も信頼に価する(統計的に言えることだけを言う)ということで前々から注目させていただいております。
お疲れ様でございます。
青森県内の医療小雑誌に掲載されるということで、徐々に知識が拡散されていくことを希望します。
基本、医師は忙しくて(?)自分の専門以外はほとんど興味がありませんからね。
被曝のダメージが正しく認識されるのは一体何時になるやら、と遠い目で見ています。
これからも先生、頑張って下さい。