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不妊治療で無視されてきた実の親を知る子どもの権利

2005年05月10日 | こども・小児科
この意識調査は予想された結果ではありますが、特に非配偶者間人工授精(AID)において(かつてはアルバイト感覚で)精子を提供していた医学生や産婦人科医局の意識や、「慶応の医学生の精子なら…」という気持ちが夫婦の中にわずかでもなかったかどうか、厳しいことを言うようだけれども、本当に子どもが育って自分の出自を知りたいと思った時にどう対応するかまで考えてその治療を行ったのかが問われていると言えるでしょう。(現在は医学生だけではないのかもしれません)

>子供が遺伝上の父親を知りたいと思うことについて「人情で仕方ない」(66・7%)
>と理解を示しながら、「子供の当然の権利」との回答は18・2%にとどまった。

不妊治療における「子どもの知る権利」が法令化されるはずだったものが、いつのまにか立ち消えになったのでどうなったのかと思っていました。この問題に対する私のスタンスははっきりしていて、親や産婦人科医の考え一つで「何でもあり」の不妊治療が放任されて良いはずはなく、肝腎の生まれてくる「子どもの幸せ」が考えられていないものが「治療」の名に値するのかどうかまで、当事者は是非考え直していただきたいと思います。「自分のルーツの半分が一生分からないことが、本当に子供のためでしょうか」という声に一度でも耳を傾けたことがあったのか。不妊治療の全てを否定するわけではありませんが、もし今後もAIDを行うのであれば、「子どもの知る権利」を確保した上でスウェーデンのようにドナーが10分の1に減少したとしても仕方ないでしょう。安易に自分の精子を提供してきたこれまでの姿勢は改められるべきで、子どもの権利を明言した法制化を早期に実現すべきです。

いきなりだと難しい問題かもしれませんで、記事全文を引用させていただきます。参考にしてください。(どこかに保存されているならリンクですむのですが…)

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「実の父」開示に壁 9割、精子提供は匿名で
「子が知るなら非協力」 非配偶者間人工授精

 夫以外の第三者の精子を使った非配偶者間人工授精(AID)で、精子を提供した人(ドナー)の3分の2が「子供が自分に会いに来る可能性を言われたら、提供しなかった」と考え「提供は匿名のままが良い」も90%近くに上ることが9日までに、厚生労働省研究班(主任研究者・吉村泰典(よしむら・やすのり)慶応大教授)の調査で分かった。AIDドナーの意識調査は初めて。
 AIDによる出産は、1948年の第1例以降、1万人以上とされる。
 厚労省の生殖補助医療部会は2003年にまとめた報告書で、15歳以上の子供に「自らの出自を知る権利」を認め、希望に応じ「遺伝上の父」の氏名や住所を開示すべきだとした。しかし法整備は異論続出で宙に浮いており、調査結果は今後の論議に影響しそうだ。
 調査は、1998-2004年に慶応大病院で精子を提供した男性120人に調査票を送り、32人が回答した。20-30歳13人、31-40歳16人、41-50歳が2人。1人が年齢不明で、既婚者は23人だった。
 「あなたの提供により生まれた子が、会いに来る可能性があるとあらかじめ話されたら、提供しなかったか」との質問には、66・7%が「提供しなかった」と回答。
 理由を書いてもらうと「将来の自分の生活や家庭が脅かされるので怖い」「子供に何らかの責任を取らなければと感じるから」「自分と会うことで、子供とその家族の関係が変化してしまうのが怖い」などがあった。
 精子を提供したことを「自分の家族に話した」のは12・1%だけ。「提供は匿名のままが良い」が87・9%に上った。
 子供が遺伝上の父親を知りたいと思うことについて「人情で仕方ない」(66・7%)と理解を示しながら、「子供の当然の権利」との回答は18・2%にとどまった。自分の情報は「何も教えてほしくない」(45・5%)がほぼ半数を占め、「髪の毛の色や身長、体重」「性格や嗜好(しこう)」など個人を特定できない範囲のものでも、80%近くが情報提供に難色を示した。

難しい「子の権利」確立

 【解説】非配偶者間人工授精(AID)の精子提供者(ドナー)の9割が匿名を望んでいるという調査結果は、AIDで生まれた子供たちの「出自を知る権利」確立を阻む壁がいかに厚いかを示した。半世紀以上の歴史を重ねたこの医療が、親側の事情だけで続いてきたことの反映でもある。
 ドナー情報開示への抵抗感は「遺伝上の父」であるドナーや、実子として産み育てたい「法律上の親」だけでなく、精子確保が必要な医師も強いという。子への秘密を前提にした医療をこのままにしていいのか、さらに徹底した論議が必要だ。
 AIDをめぐっては、両親の大半が子への告知に否定的との研究結果がある。ドナーも「献血や骨髄移植の組織と同じ感覚」で提供しているのが実態で、1984年に法律で子の出自を知る権利を定めたスウェーデンでは、ドナーが10分の1に減少した事実がある。
 しかし国内では近年、血縁関係の有無を理由にAIDで生まれた子の親権を両親が裁判で争う事態が発生。今後、財産分与などの問題が生じると指摘されている。
 厚労省の生殖補助医療部会は2003年の報告書で「子がドナー情報を知ることは、アイデンティティー(自己認識)の確立に重要」と提言したが、少子化克服の掛け声の中で、生殖医療推進の妨げになる情報開示の法制化は遅々として進んでいない。
 部会報告書は「情報開示でドナーが減少してもやむを得ない」とまで述べていた。何の手も打たずに「自分は誰の子か」という根源的な欲求に目をつぶった状態を放置することは許されまい。

「ルーツの半分知りたい」 「子どもの会」で思い交流

 父親と血のつながりがないと知った時の思い。両親への不信と自分の存在への不安が募る。「遺伝上の父」はどこにいるのか。「自分のルーツの半分が一生分からないことが、本当に子供のためでしょうか」。3月に誕生した「AID(非配偶者間人工授精)で生まれた子どもの会」のパンフレットには、複雑な気持ちがあふれている。
 20代の美幸(みゆき)さん(仮名)がAIDで生まれたことを知ったのは23歳の時。母に突然告げられた。父が遺伝性疾患と分かり「自分も将来、発病するのか」と不安に感じていたころだった。
 「なぜそこまでして子供をつくったの?」「両親は本当に納得し(AIDを)選択したのか」。自分の存在に自信が持てなくなった。揺れる心に光が差し始めたのは、同じ境遇の人との出会いがきっかけだった。
 3月、数人が集まって「子どもの会」が生まれた。2カ月に1度、秘めた思いを打ち明け合う。
 美幸さんはパンフレットに書いた。「真実を告げることで親子の関係が壊れても、関係を築き直すだけの覚悟が、AIDを選択するからには必要ではないでしょうか」
 メンバーの恵(めぐみ)さん(仮名、30代)は7年前、両親の離婚をきっかけに母からAIDの事実を知らされた。戸籍上の父とは折り合いが悪く、心の中にあった違和感から解放された気がした。
 その母も4年前に他界した。「自分の出自を隠されていた」。両親への不信感は募るが、ぶつける相手はもういない。
 「うまくいっている家庭もあるでしょう」と恵さん。「でも子供は成長し、自分の観点で物事を考えるようになる」。医師や精子の提供者(ドナー)にも、そのことを受け止めてほしいとつづっている。

非配偶者間人工授精

 非配偶者間人工授精 無精子症などの夫に代わり、第三者の精子を妻の子宮に送り込み、妊娠・出産を試みる不妊治療。国内では1948年に慶応大病院で初めて実施され、1万人以上が生まれたとされる。法的規制はないが、日本産科婦人科学会が97年に独自のガイドラインを作成。学会に登録した医療施設での実施を原則とし(1)戸籍上の夫婦に限定(2)営利目的での精子提供を禁止(3)精子提供者は匿名とし、医師が提供者の記録を保存する-などを定めている。

ドナーにも十分な説明を

 非配偶者間人工授精(AID)で親子や医師から聞き取り調査をしている長沖暁子(ながおき・さとこ)慶応大助教授(科学社会学)の話 ドナー情報の開示を義務付けているオーストラリア・ビクトリア州では、専門知識を持ったカウンセラーが事前に、ドナーに対し精子提供の意味や、自分と遺伝的につながりを持つ子供が他の親に育てられる可能性を説明している。日本ではこれらの説明が十分になされず、子供側の出自を知る権利も守られていないため、ドナーの中には自らの行いに責任を感じ、後悔する人もいる。子供の権利を踏まえ、両親とドナーの双方が納得した形での治療を構築する必要がある。

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