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(4/15版)中国の鳥インフルエンザA/H7N9 「人-人感染」は限定的 野鳥から広い地域へ拡大

2013年04月15日 | 新型インフルエンザ
この暫定的・個人的なまとめは、報道やネット上の情報から現時点での判断を記したものですが、情報に不確かな点がまだ多いことに加えて、一小児科医の判断ですので誤りがある可能性があることを最初にお断りしておきます。

このページは書き換えずに、変更する必要があるときにはブログの新しいentryとして追加更新していく予定です。
(情報を追加更新していく中で、長くなり重複も多くなってしまいました)

(4/10版との主な違いは、限定的な「人-人感染」を示唆する例の存在、不顕性感染の可能性、野鳥から広い地域に拡散という推測が確認されつつあるという3点です)

ポイントは、1)「人-人感染」の有無(感染力)、2)軽症例の有無(病原性)、3)野鳥の調査結果の3つですが、前二者はあっても限定的で、野鳥の行方はしばらくつかめそうにありません。

ウイルスの変異の情報には今後も注意が必要。

感染ルートは依然として未解明だが、「野鳥→家禽→人」でほぼ確定的。
豚が介在した可能性もまだ否定されていない。
ただし、いずれも証拠はなく、感染ルートの解明は難しそう。

現在のような感染者が増える状況はもうしばらく続き、地域も拡大していくものと思われますが、日本国内で輸入例ではなく鳥からの直接の感染例が出る可能性は小さい。(ゼロとは言えない)

■ 感染者数・死亡例

4月15日現在、感染者は61人で、13人が死亡、9人が軽症(うち1人が治癒、1人は症状なしとの情報です。
残りの38人の多くは重症のようですが詳細は未確定。
(11日のWHO発表では38人中10人死亡、19人重症、9人軽症)

4/15 61人中13人死亡 21.3%
4/14 60人中13人死亡 21.7%
4/13 44人中11人死亡 25.0%
4/12 43人中11人死亡 25.6%
4/12 38人中10人死亡 26.3%
4/11 35人中 9人死亡 25.7%
4/10 33人中 9人死亡 27.3%
4/09 28人中 9人死亡 32,1%
4/09 24人中 7人死亡 29.2%
4/07 21人中 6人死亡 28.6%

61人中13人が死亡(死亡率 21.3%)という数字は、当初より低下したとは言えまだ高い割合だが、これは中等症・軽症の感染者が少数しか診断がついていないことによる可能性が高い。
→「人から人への感染」および「病原性」

13日から15日にかけて北部の北京市で2例、内陸部の河南省で1例感染者が確認しており、今後も調べていくと中国の広い地域で発見される可能性が高い。

■ 人から人への感染の有無

WHOによると、1000人以上の接触者が経過観察されており、早期に確定された患者の接触者で症状があった人の調査が進められている。
現時点では、人から人への感染が継続しているという証拠はない。

WHOは9日、「2家族で人から人への感染が疑われる事例がある」ことを明らかにした。
13日には上海で夫婦間の感染例が確認されている(2家族のうちの1つと思われる)。
これだけで人-人感染の直接の証拠とは断定出来ず、その周囲への感染の拡大は確認されていない。

限定的な家族間感染があったとしても、それ以上拡大していなければ、過剰反応すべきではない。

インフルエンザは一般に感染力が強く、潜伏期も2~3日で、症状がある期間が1週間くらいなので、10日くらい観察すれば大体の傾向は判断できる。
既に、4月10日で最初の発表から10日が経過している。

人から人への感染の有無を確かめるためには、感染者同士の接触の有無、周囲の接触者や医療関係者の経過観察と共に、軽症者の存在も間接的な判断材料となる。

人から人への感染があるのなら、どんなに病原性が強くても、中等症や軽症で診断されないまま治っている人がピラミッド型に相当数存在するはず。
抗体検査や症状の有無などを調査すれば判断できる。
軽症者が少数しか確認されていない現状では、人から人への持続的な感染は否定的。

北京の無症状の4歳男児例(7歳女児の両親が鶏を販売した家庭)は、軽症者や感染しても発症しない不顕性感染が相当数いる可能性を示唆している。 ◎重要
発症者周囲の抗体保有状況のデータが出てこないと判断できない。

今後、新たに感染者の体内で別の変異が起こるといったことがなければ、現時点では人から人への感染性は弱く、限定的なものと推測される。

■ 遺伝子解析

遺伝子の解析で、混合した3種類のウイルスの遺伝子がいずれも鳥インフルエンザ由来だというのは良いニュースと言えるだろう。ブタの体内で鳥とヒトのウイルスとが混合してくると、2009年のようにパンデミックの恐れが出てくるが、今回のは正真正銘の鳥インフルエンザウイルス。豚が介在したという情報はない。

ただし、国立感染症研究所の分析で、このウイルスの遺伝子が人に感染しやすく変異していることが解明されているので、鳥から人への感染は今後も続く可能性はある。

上記のように患者の体内で別の変異が起きて人から人への感染性が獲得される可能性に注意が必要。

3種類の遺伝子が浙江省、韓国、長江より北という別々の地域の野鳥ウイルスに由来しており、このH7N9が野鳥の間で変異して広がり、渡り鳥または家禽を介して人に感染したものと推測できる。

■ 「鳥インフルエンザ」か「新型インフルエンザ」か

現時点で人から人への継続的な感染が認められていない状況では、感染者数や死者数がどれだけ増え続けても、「鳥インフルエンザ」に人が感染しているという判断に変わりはなく、鳥インフルエンザが変異して人から人への感染性を獲得した「新型インフルエンザ」の流行ではない。

一部のメディアで当初「新型鳥インフルエンザ」という用語を用いているのを目にしたが、「鳥インフルエンザ」と「新型インフルエンザ」の違いをよく理解していない人に誤解を与える恐れがあるので使わない方が良いだろう。

■ 家禽(ニワトリ、ハト、ウズラ、アヒルなど)

この点についての情報が錯綜している。

これまで、市場のハト、ニワトリ、ウズラなどでウイルスが検出され、上海市では約10万羽が殺処分されたと伝えられている。
一方で、家禽から7千以上のサンプルを調査した結果、H7N9は検出されていないという情報も報道されている。

感染者の中にも、家禽との接触が明らかではない人も含まれているようで、市場や養鶏場だけではなく、家庭で飼っている鶏や野鳥など、広い地域で複数、多数の感染源があるものと推測される。

前記の通り、豚が介在した可能性もまだ否定されていない。

■ 野鳥(ガン、カモなど)

これが一番重要なポイント。

鳥に対する病原性がなくて野鳥(渡り鳥)の間で広がっているなら手の打ちようがない。
(これだけ人の感染者が出ているなら既に相当前に変異が起きて広まっていたと推測するのが普通)

野鳥の調査も実施中だと伝えられているが、その情報がまだほとんど出て来ていない。
4月10日の報道では、検査した野鳥からウイルスは検出されていないとのことだが、今後の情報に注意が必要。

弱毒性ゆえに鳥の内臓でウイルスが増殖し血中からは検出されない、という難点もあるようだ。

4月には既に渡り鳥は北に帰ったと報じられおり、追いかけてシベリアを調査する必要があるはず。

「遺伝子」のところに書いたように、別々の地域の野鳥由来の3種類のウイルスが混合してることから、各地の野鳥がシベリアなどで交雑して変異し、それが中国に戻ってきたのではないか推測される。

だとしたら、中国の別の地域だけでなく、日本を含む東アジアにも広がっている可能性もあるのだが、当初限局した地域で発見された理由はわからない。

4月13日には北京市で両親が鶏の販売に従事している7歳女児で感染が確認され、14日に河南省、15日に北京市で4歳男児(無症状)で感染が確認されている。
やはり、中国の広い地域で野鳥(渡り鳥)から鶏などの家禽へウイルスが広まっていた可能性が高い。

日本でも野鳥の調査を開始すべきだと思うが、なぜか誰もそのことには触れようとしない。
(実際には継続的なモニタリング調査は行われているはず)

なんとなく、原発安全神話や原発事故報道を思い起こさせる。

■ 病原性は

鳥に対する病原性は低く(低病原性鳥インフルエンザ)、鳥の間で症状のないまま広がって人に感染している。
問題は人に感染した場合の病原性の程度。

61人中13人が死亡という高い割合をみると人に対する病原性が強そうに思えるかもしれないが、分母となる全体の感染者数が把握できていないため、まだ判断はできない。

「感染者数は少数にとどまり、感染すると高い割合で重症化する」可能性と、「診断されていない中等症・軽症者が多数いて、そのうちの一部だけが重症化している」可能性という二極間のどこに位置するのかが問題だが、これまでの情報からどちらかというと前者(高い頻度で重症化)に近いのではないかと推測される。

今後、軽症者の有無、抗体保有状況の結果がわかれば、この判断は変わってくる可能性がある。

現時点では、いったん感染して発症するとある程度の高い割合で重症化すると考えた方が良さそうだ。

■ 感染力は

これまで人の間で明らかな流行を起こした A型インフルエンザはH3N2(A香港型)とH1N1(スペインかぜ、Aソ連型、H1N1pdm2009)の2種類しかない。
15年以上、高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)の監視が続けられてきたが、H5N1が変異してパンデミックを起こすことはないのではないかというのが最近の見方だ。

今回のH7N9が人に感染しやすく変異しているという点には注意が必要だが、このタイプが大きな流行を引き起こす可能性は低いだろうと第一報の時からずっと考えている。

これまでの調査からも、人から人への感染が持続的に起きている可能性は低く、現在のウイルスのまま新たな変異がなければ、パンデミックを心配する状況にはない。
(厚生労働省の担当者も「2段階前」と表現している)

準備はあくまで「次の変異」に備えてのもの。

小児に少なく高齢者に多いことは、直接接触の程度・頻度によるものと推測される。

■ 今後の予想は

このウイルスが家禽だけでなくガン・カモなどの野鳥の間で広く浸透しているとすれば、市場の鳥をいくら殺処分しても自然界から消え去ることはなく、手の打ちようがない。
(だから、ウイルスの在り処を調べることが最も重要)

渡り鳥が北に帰ってシベリアに集まり、中国からの渡り鳥も日本からの渡り鳥も交雑してウイルスが浸透し、変異も起こる。その鳥が、また中国や日本に戻ってくる。

その中で、今後も散発的な、あるいは集団的な人への感染が繰り返される可能性が高いと考えている。

ただし、このタイプのウイルスがずっと鳥の間で優位を保って生存し続けるかは全くわからない。新しい型や元からあった型に駆逐される可能性もある。その可能性の方が高いのではないかと予想してる。

いずれにせよ、野鳥の調査結果がまだほとんどわかっていない状況では、何も判断できない。

■ 謎や特殊要因は

感染源や感染経路の証拠がほとんどつかめていないこと。
これは、単純に市場、養鶏場、野鳥のどれかに限定できず、感染源が複数、多数存在することを示唆している。
これまで書いたように、野鳥から家禽へ広く浸透してる可能性が高く、非常に厄介。
ウイルス操作(バイオテロや実験での封じ込めミス)などの人為的要因も頭の片隅には残しているが、その可能性は低そうだ。

■ 新型インフルエンザ特措法適用?

この特措法が適用されるのは、「人-人感染」を起こす「新型インフルエンザ」または不明の感染症であって、さらに季節性インフルエンザよりも多数の死者を出すことが予想される場合に限定されます。メディアの当初の報道は法律の適用範囲を理解していないか無視した誤報。

現時点で、この「鳥インフルエンザ」対策の根拠とはなり得ません。
「鳥インフルエンザ」対策は従来の法律で行われます。

特措法自体は昨年成立して今年5月に施行予定だったので、それを1ケ月前倒しすることに大した意味はありません。
(法律自体に問題が多いのですがその議論はここではしません)

この「鳥インフルエンザ」に更に変異が起こって「新型インフルエンザ」になる可能性を想定して準備することは必要ですが、今回の「鳥インフルエンザ」対策のために特措法施行を早めたという一部の報道や政府発表は誤解を生むものです。

■ ワクチンの開発

国立感染症研究所は中国からウイルス株を入手でき次第、新たなワクチン開発に入ると発表している。米国でもワクチン開発の準備に入っている。ただし、これはあくまで人から人への感染が認められるようになった際に流行の拡大を抑制するための準備であって、現状の「鳥インフルエンザ」の段階でワクチンが接種されることはない。

(鳥に対するワクチンも開発されているらしいが情報ソース不明)

■ 抗インフルエンザ薬

抗インフルエンザ薬のタミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタは試験管内で効果がみられたという。実際に治療した際の効果については、ある程度まとまった成績が発表にならないとわからない。

■ 中国への渡航

出入国とも制限する必要はありません。市中でのマスクは「鳥インフルエンザ予防」としては意味がないかと。。
鶏や野鳥に近づかないのは当然として。

また入国者に対する検疫などをし始めないか懸念されます。
2009年のときは無意味な過剰反応で世界に恥をさらした。

そうは言ってもこの国(政府・メディア・国民)では簡単には済まない。
中国から帰国した人が1人でも熱を出したら、(たとえ関係のない発熱でも)政府もマスコミも大騒ぎになるはず。。
運悪くその犠牲者になりたくなかったら、中国への渡航は避けた方が良いだろう。。(もし可能なら)

早晩「第一例」が発見されることに。。
当然、これまでに既に侵入していた可能性も十分にある。。

そのような疑いのある患者さんが来院しないことを祈るしかない。。八戸の小児科開業医に受診する可能性は限りなく低いが。。

くば小児科クリニック
久芳康朗

2013.4.15(4.16一部修正・追加)

情報のソース→別にリンク集を掲載しています。

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