2月に発表になった福島の甲状腺がん検査の結果について、他の用件がありチェックできてませんでした。その間にネット上でも議論があったようですがこれも全然読めてません。
→「県民健康管理調査」検討委員会(福島県)
昨年2月の発表以来このブログで何度も取り上げてきたのですが、「目安は有病率10-30人/10万人(スクリーニング効果10年分として発生率1-3人/10万人)で、これはベラルーシの90年代前半~中盤のピーク時に相当する」と書いてきました。
11月発表のデータで2011年度と2012年度の有病率がほぼ30人/10万人で並んだことは、同じ傾向で検出されているという点において、2巡目以降の増加の可能性を示唆するものではないと考えていました。
(クリックして別ウインドウで拡大)
同じ表が3つ並んでいますが、昨年8月、11月発表分と、今回(2月)発表のものとを比較してみました。ごちゃごちゃしていてわかりにくいかもしれませんが、公式のデータをただ眺めていてもこの結果は見えてきません。
(ここでは手術して低分化癌疑いの1例は「疑い」に入れていますので、一部の報道であった33名ではなく32名となっています。)
2月発表のデータをみると、どうも雲行きが怪しくなってきた。
全部合わせた有病率(一次受診者を分母とした「確定+疑い」患者の割合:10万人あたり)は、19.8→24.3→27.5と時間の経過とともに上昇し、特に2年目は22.1→31.7→35.9と増加して、1年目の33.7を追い越しています。
2013年度の一次健診は対象の72%で、おそらく二次検診や細胞診はまだ途中の段階だということを差し引いても、1年目、2年目と比べると有病率は低くなりそうな気配。
3年目は会津などの低汚染地域と、初期の被曝量が不明だが汚染度は高くないいわき市が含まれている。
一次健診の陽性率(B+C判定)をみると、3年間であまり差がない。
細胞診の実施率自体が2年目、3年目で半分半分に減っている。
二次検診後の経過観察期間が長くなればある程度増加するはずだが、それでも1年目、2年目の有病率(30/10万)には届かないだろう。
だとしたら、「原発事故とは関係のない甲状腺がんが詳細な検査で検出されているだけ」という説明は成り立たなくなる。
変な話だが、同じ傾向(高い検出率)で検出されていたなら、地域や被曝量と関係がなさそうだという点で、ある意味安心材料となり得るのですが、ここでもし明らかな差が出てくると、前提条件が崩れてしまう。
(かと言って、もっと増えてほしいと考えているわけではもちろん無いのだが…)
この表では計算していないが、細胞診実施者中の「がん確定+疑い」者数の割合を見てみると、
2011 14/ 89 = 15.7%
2012 50/243 = 20.5%
2013 10/ 37 = 27.0%
となり、むしろ増加している。
これは、年数を重ねるにつれて、細胞診を厳選して実施する傾向になってきているため、陽性率が高くなっているものと推測されます。
この判定基準が同じかどうかが問題。
ある程度意識的にそう判断してきたのか、あるいは同じ判定基準で細胞診を実施しているのに、2年目3年目と実施対象者の割合が減っているのかという疑問に辿り着きます。
ここで問題にしているのは、福島県外の弘前・甲府・長崎の超音波検査で、福島と同じか、むしろ高い割合で嚢胞や結節が検出されていたこと。(昨年の調査)
この時に、たとえ同じ頻度であっても、分布が違ったり(大きいものの割合が多いとか)、悪性のものが含まれる割合が違う可能性がないかどうかというあまり医学的ではない推察をしたことを考え直してます。
ここでも一次健診の陽性率には差がない。でも細胞診の実施率や結果としての有病率には違いが出そう。
(1年目と2年目の比較では、一次の陽性率が2年目の方が高く、細胞診実施率は下がっても陽性率は上がったので、全部掛け合わせると有病率は同程度になった。)
この要因は何なのか。
そもそも本当に低くなりそうと判断しても良いのか。
まだ3年目の一次未受診者、二次未受診者、二次受診後の細胞診実施者が増えてくるはずなので、これまでと同じ結論になりますが、まず3年目までの検査が全部出そろって、その後の2巡目の結果と比較していくしかありません。
「スクリーニング効果10年分として発生率1-3人/10万人」というのは10年分まとめて発見されたという過大とも言える見積りですから、2巡目で福島原発事故の影響がないとすると1/10になるという結構厳しい話。。
1)多発多発で大変、2)影響はない、3)不必要な検査をしている、のいずれの立場もとらないと書いたのも、同じ考えです。
(過去の関連記事)
福島の甲状腺がん検査の患者数は? 感度・特異度により3人?12人? (応用できる一般式付き) 2013年03月18日
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/6a02a115e45411901a865df6cf4dcb34
福島県外3市と福島県内の甲状腺検査結果の比較 考えられる推論2つはいずれも不可解 2013年04月03日
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/46d539e4482351e8ee38cd08c4f56e8a
福島の甲状腺がん検査の患者数の推計式を感度・特異度でグラフ化してみました 2013年04月04日
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/7f1203b6487541161b2d9c84ea5c9637
「福島の小児甲状腺がん:確定12人、疑い15人」のニュースについて(現時点での判断) 2013年06月05日
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/e19418ce9da232779d48d0e6cf1e5714
福島県の小児甲状腺がん:7~15人(確定~疑い)/10万人:2012年は2011年より減少傾向か:判断は数年後 2013年06月06日
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/35051aab0d916a1282a8a3430f9bc1b4
福島県の甲状腺がん検診結果をどう読むか 発生率1~2人/10万人はベラルーシと同じ(某紙掲載原稿) 2013年06月11日
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/7098ce074b9500449ee9c5f8dc2bfb52
福島の甲状腺がん18+25=43例 発生率は2-3/10万人に増加 二次実施者中の割合は変わらず 2013年08月21日
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/7edb36bf2501b109e9a6ca9dc433d839
福島の甲状腺がん「確定26+疑い32=58名」発症率は約3人/10万人で8月と同じ。判断は出来ず(11/12) 2013年11月13日
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/e86cf45fdadd78faf1d98fc06401f062
→「県民健康管理調査」検討委員会(福島県)
昨年2月の発表以来このブログで何度も取り上げてきたのですが、「目安は有病率10-30人/10万人(スクリーニング効果10年分として発生率1-3人/10万人)で、これはベラルーシの90年代前半~中盤のピーク時に相当する」と書いてきました。
11月発表のデータで2011年度と2012年度の有病率がほぼ30人/10万人で並んだことは、同じ傾向で検出されているという点において、2巡目以降の増加の可能性を示唆するものではないと考えていました。
(クリックして別ウインドウで拡大)
同じ表が3つ並んでいますが、昨年8月、11月発表分と、今回(2月)発表のものとを比較してみました。ごちゃごちゃしていてわかりにくいかもしれませんが、公式のデータをただ眺めていてもこの結果は見えてきません。
(ここでは手術して低分化癌疑いの1例は「疑い」に入れていますので、一部の報道であった33名ではなく32名となっています。)
2月発表のデータをみると、どうも雲行きが怪しくなってきた。
全部合わせた有病率(一次受診者を分母とした「確定+疑い」患者の割合:10万人あたり)は、19.8→24.3→27.5と時間の経過とともに上昇し、特に2年目は22.1→31.7→35.9と増加して、1年目の33.7を追い越しています。
2013年度の一次健診は対象の72%で、おそらく二次検診や細胞診はまだ途中の段階だということを差し引いても、1年目、2年目と比べると有病率は低くなりそうな気配。
3年目は会津などの低汚染地域と、初期の被曝量が不明だが汚染度は高くないいわき市が含まれている。
一次健診の陽性率(B+C判定)をみると、3年間であまり差がない。
細胞診の実施率自体が2年目、3年目で半分半分に減っている。
二次検診後の経過観察期間が長くなればある程度増加するはずだが、それでも1年目、2年目の有病率(30/10万)には届かないだろう。
だとしたら、「原発事故とは関係のない甲状腺がんが詳細な検査で検出されているだけ」という説明は成り立たなくなる。
変な話だが、同じ傾向(高い検出率)で検出されていたなら、地域や被曝量と関係がなさそうだという点で、ある意味安心材料となり得るのですが、ここでもし明らかな差が出てくると、前提条件が崩れてしまう。
(かと言って、もっと増えてほしいと考えているわけではもちろん無いのだが…)
この表では計算していないが、細胞診実施者中の「がん確定+疑い」者数の割合を見てみると、
2011 14/ 89 = 15.7%
2012 50/243 = 20.5%
2013 10/ 37 = 27.0%
となり、むしろ増加している。
これは、年数を重ねるにつれて、細胞診を厳選して実施する傾向になってきているため、陽性率が高くなっているものと推測されます。
この判定基準が同じかどうかが問題。
ある程度意識的にそう判断してきたのか、あるいは同じ判定基準で細胞診を実施しているのに、2年目3年目と実施対象者の割合が減っているのかという疑問に辿り着きます。
ここで問題にしているのは、福島県外の弘前・甲府・長崎の超音波検査で、福島と同じか、むしろ高い割合で嚢胞や結節が検出されていたこと。(昨年の調査)
この時に、たとえ同じ頻度であっても、分布が違ったり(大きいものの割合が多いとか)、悪性のものが含まれる割合が違う可能性がないかどうかというあまり医学的ではない推察をしたことを考え直してます。
ここでも一次健診の陽性率には差がない。でも細胞診の実施率や結果としての有病率には違いが出そう。
(1年目と2年目の比較では、一次の陽性率が2年目の方が高く、細胞診実施率は下がっても陽性率は上がったので、全部掛け合わせると有病率は同程度になった。)
この要因は何なのか。
そもそも本当に低くなりそうと判断しても良いのか。
まだ3年目の一次未受診者、二次未受診者、二次受診後の細胞診実施者が増えてくるはずなので、これまでと同じ結論になりますが、まず3年目までの検査が全部出そろって、その後の2巡目の結果と比較していくしかありません。
「スクリーニング効果10年分として発生率1-3人/10万人」というのは10年分まとめて発見されたという過大とも言える見積りですから、2巡目で福島原発事故の影響がないとすると1/10になるという結構厳しい話。。
1)多発多発で大変、2)影響はない、3)不必要な検査をしている、のいずれの立場もとらないと書いたのも、同じ考えです。
(過去の関連記事)
福島の甲状腺がん検査の患者数は? 感度・特異度により3人?12人? (応用できる一般式付き) 2013年03月18日
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/6a02a115e45411901a865df6cf4dcb34
福島県外3市と福島県内の甲状腺検査結果の比較 考えられる推論2つはいずれも不可解 2013年04月03日
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/46d539e4482351e8ee38cd08c4f56e8a
福島の甲状腺がん検査の患者数の推計式を感度・特異度でグラフ化してみました 2013年04月04日
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/7f1203b6487541161b2d9c84ea5c9637
「福島の小児甲状腺がん:確定12人、疑い15人」のニュースについて(現時点での判断) 2013年06月05日
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/e19418ce9da232779d48d0e6cf1e5714
福島県の小児甲状腺がん:7~15人(確定~疑い)/10万人:2012年は2011年より減少傾向か:判断は数年後 2013年06月06日
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/35051aab0d916a1282a8a3430f9bc1b4
福島県の甲状腺がん検診結果をどう読むか 発生率1~2人/10万人はベラルーシと同じ(某紙掲載原稿) 2013年06月11日
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/7098ce074b9500449ee9c5f8dc2bfb52
福島の甲状腺がん18+25=43例 発生率は2-3/10万人に増加 二次実施者中の割合は変わらず 2013年08月21日
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/7edb36bf2501b109e9a6ca9dc433d839
福島の甲状腺がん「確定26+疑い32=58名」発症率は約3人/10万人で8月と同じ。判断は出来ず(11/12) 2013年11月13日
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/e86cf45fdadd78faf1d98fc06401f062