万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

経済の相互依存は侵略の相互抑止ではない

2015年09月29日 16時50分46秒 | 国際政治
中国、EUの投資計画に資金=加盟国以外で初
 政治的には対立する国家同士であっても、貿易やビジネスを通して密接な関係が構築され、相互依存関係に至ると、両国間には戦争が起きなくなるとする説があります。お互いに相手国を攻撃することが、自らの貿易相手やビジネスチャンスを潰すことになるからです。

 相手国に対して武力に訴えることが自滅行為となるならば、確かに戦争を回避する動機とはなります。しかしながら、この抑止力、双方に対して同等に働くのでしょうか。相互依存論の世界では、一先ずは、双方とも同質の国家を想定しています。ところが、現実の世界では、全ての国が同様の行動パターンを示すわけではなく、中国のように、法の支配を無視し、実力行使に基づく”既成事実化”を試みる国もあります。こうした国が出現した場合、経済の相互依存による抑止力は、覇権主義国に有利に作用する可能性があります。何故ならば、覇権主義国が、経済を人質に取った瀬戸際作戦を展開する一方で、覇権主義国と相互依存関係にある諸国は、戦争による経済的ダメージを怖れ、侵略を含む違法行為を武力で抑えることを躊躇うかもしれないからです。この場合、経済の相互依存は侵略の相互抑止とはならず、一方の国の侵略を黙認することになりかねません。

 戦争回避を期待して、政治的に対立している国との間の経済の相互依存を強めますと、逆に、自らの選択肢を狭め、身動きがとれない状況に陥る可能性があります。結果として、覇権主義国の戦略である”戦わずして勝つ”の実現を助け、国際社会に暴力支配をもたらすならば、相互依存論は”奴隷の平和論”になりかねないと思うのです。

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コメント (2)
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