万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

安保法案に見る現実主義と理想主義の調和

2015年09月01日 15時18分42秒 | 国際政治
安保法案、修正せず…維新分裂で合意を断念
国際政治の世界では、机上の学説のみならず、政治の実践の場においても、現実主義と理想主義の二つの潮流が凌ぎを削ってきた観があります。保守系の政党とリベラル系の政党との対立軸も、およそこの二つの潮流に沿って理解されています。

 しかしながら、21世紀が、法の支配がかつてないほどに広がった時代と捉えますと、今日ほど、この二つの潮流が調和点を見出す機会に恵まれた時代はないとも言えます。理想主義者が、カントの『永遠平和のために』をバイブルとしする一方で、現実主義者のバイブルは、ホッブスの『リヴァイアサン』となるのでしょうが、両者の思想は、法の観点から眺めますと、必ずしも対立しているわけではありません。カントは、永遠平和のために普遍的な道徳律が国際社会において確立することを望み、”万人の万人対する闘争”を想定したホッブスも、各自の自然権の放棄は、理性の法則に従った結果と見なしているからです。言い換えますと、両者とも、法の支配の下における秩序を構想していることにおいて共通点を見出すことができるのです。これまで、両者が正反対の思想と見なされてきた主たる理由は、カントが、常備軍の全廃を予備条件に加えるなど、軍事力に対する否定的な態度を示す一方で、ホッブスの理論は、国際社会における政府なき状態、即ち、”万人の万人に対する闘争”状態における軍事力の必要性を正当化していることに求めることができます。それ故に、両思想家が生きた17世紀や18世紀には存在していなかった国際法秩序が、今日の国際社会において完全ではないにせよ形成されているとしますと、ホッブスの理論における軍事力の必要性は、国際レベルにおける法の執行力として読み替えることができますし、カントの目指した常備軍の全廃も、侵略的な目的で行動する軍隊の廃止と読むことができます。現実主義と理想主義の源流をホッブスとカントの二人の思想家に絞ることは、いささか乱暴であるかもしれませんが、法を基礎に据える視点は、国際法秩序の維持のための力の行使が、両派において矛盾なく肯定される可能性を秘めているのです。

 安保法案については、”戦争法案”として批判する声もありますが、現実主義と理想主義との調和の観点から軍事力の意義を再定義しますと、批判一辺倒は時代を見誤っているように思えます。国際社会における”違法行為”や”犯罪行為”を取り締まり、全ての諸国に安全と安定をもたらす執行力としての軍事力の必要性は、現実主義にあっても、理想主義にあっても、認めざるを得ないのではないかと思うのです。

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コメント (2)
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