万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

国境のない世界―『イマジン』の理想と現実

2015年09月07日 15時11分27秒 | 国際政治
【難民欧州流入】独到着の難民ら約2万人に 地元は悲鳴、独連立与党30億ユーロ支援で合意
 国境のない世界こそ、平和で争いのない理想社会であるとする説は、ジョン・レノンの『イマジン』にも歌われております。地球市民の発想は、遠くはアレキサンダー大王のコスモポリタン思想に起源を求めることができますが、国境のない世界は、アーティストが訴えるような人類の理想郷なのでしょうか。

 『イマジン』は、人々に想像力を働かせることを勧めています。戦争や紛争といった人類の禍の原因は国境にあるのだから、国境を取り除けば、自ずと地球上に平和が訪れる、ということなのでしょう。しかしながら、今般、ヨーロッパで起きている”難民危機”は、国境のない世界の想像が誤りであったことを示しております。EU内では、シェンゲンエリアが設けられ、およそ加盟国間の間で国境がなくなった状態が現出しておりますが、シリアやアフリカからの大量の難民が、加盟国の国内、並びに、EU加盟国間で深刻な対立をもたらしているからです。移民受け入れについては、人道的な見地や理想主義から歓迎する声がある一方で、近年、ヨーロッパ各国では、移民政策に反対する右派政党も支持を伸ばしており、国内世論も分かれております。また、EU内部でも、難民割当制に対する反対に留まらず、ハンガリー首相に至っては、ドイツに対して国境の閉鎖を求めております。そのうち、数百万人を越える難民が押し寄せると…。現実の世界で起きている”民族大移動”を前にして、国境のない世界の理想は、脆くも崩れつつあります。

 シリア一国だけでも相当数の難民が発生しておりますが、国境が撤廃され、全世界の諸国の民が一斉に移動を開始したとしますと、どのような事態が発生するのでしょうか。理想郷とは程遠く、想像しただけでそら恐ろしくなるのではないでしょうか。

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コメント (4)
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