万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

APECこそ南シナ海問題の議論の場に相応しい

2015年11月12日 15時27分24秒 | 国際政治
APECでの南シナ海問題の議題化めぐり米中が互いにけん制
 南シナ海における海洋法秩序を壊す中国の行動は、国際社会において反発を招いております。予想外の批判の広がりに焦りを感じたのか、来週に予定されているAPEC(アジア太平洋経済協力会議)においてこの問題が議題とならないよう、中国の王毅外相は、一足早くに開催地のフィリピンに飛んで根回しを試みているようです。

 まずは、議題提案の選別に関与する議長国を抑えようということなのでしょうが、フィリピンのアキノ大統領との間で、「APECの場では政治的に敏感な問題は取り上げない」ことで一致したとも報じられています。しかしながら、南シナ海問題は、政治的問題であると同時に、経済的な問題でもあります。APECは、太平洋に面する諸国の間での自由な貿易の実現を目指す枠組みである以上、航行の自由の危機に対して無関心でいられるはずはりません。自由貿易と航行の自由は不可分に結びついており、航行の自由こそ、自由貿易を輸送手段の側面において支える原則なのです。日本国内では、南シナ海問題の脅威は、通商路であるシーレーンの分断や経済封鎖の可能性として語られており、対中批判の主要な根拠でもあります。直接的には主権、領土保全、国民の安全に関わる問題ではなくとも、通商路の遮断は、産業や国民生活にとって死活的な問題ともなりかねないのです。

 貿易自由化と言えば、兎角に関税削減や撤廃に関心が向きがちですが、航行の自由に対する妨害行為こそ、自由貿易上の最大の障害です。この尊重されるべき航行の自由の原則が中国からの重大な挑戦を受けている以上、APECは、自由貿易の危機として南シナ海問題を会議の議題として上げるべきではないかと思うのです。

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コメント (2)
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