万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

”一つの中国論”は国際問題化回避の論法

2015年11月08日 14時14分56秒 | アジア
「一つの中国」確認=中台首脳が初会談―49年の分断後初
 昨日、歴史的な会談と銘打って中国の習近平主席と台湾の馬英九総統による中台首脳会談の席が設けられました。習主席側が「一帯一路構想」やAIIBへの参加を求める一方で、馬総統から表明されたミサイル配備への懸念に対しては、”台湾に向けられたものではない”とする欺瞞に満ちた返答があったそうです。

 会談の内容としては、従来の主張の繰り返しに過ぎませんが、一つだけ警戒すべき合意があったとしますと、それは、双方による”一つの中国”の確認です。しかも、この”一つの中国”は、双方が相互に解釈の違いを容認しつつも”一つの中国”を認め合ったとされる「92年合意(九二共識)」の再確認でもありました。「92年合意」については、実のところ、その実在性について議論があり、特に台湾側では、否定的な見解も示されております。中国側の一方的な主張による既成事実化は、尖閣諸島における”棚上げ問題”とも共通しており、実在が怪しいにも拘わらず、今般の首脳会談で強調された背景には、何としても、”一つの中国”こそが、92年以来の既定路線であることを国際的にアピールする狙いがあったものと推測されます。”一つの中国”に関する中台合意こそ、中国の習政権にとりましては、台湾問題の国際問題化を避け、台湾の事実上の同盟国であるアメリカ、及び、安保法制の整備を進めてきた日本国等の介入を排除する巧妙な論法なのです。つまり、中国は、台湾問題は、内政不干渉の原則が守られるべき”国内問題”であると主張したいのです。

 本会談については、中台首脳共に、両国間の関係が安定化し、アジアの平和に資すると自画自賛しておりますが、仮に、言葉とは裏腹に中国の真意が国際問題化の回避にあるとしますと、逆に、中国が、”国内問題”とする立場から台湾に対して武力介入を試みる危険性が増す可能性も否定はできません。中台首脳会談の開催は、アジアの自由と平和、そして民主主義を脅かす不吉な予兆なのではないかと思うのです。

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コメント (2)
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