万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中台首脳会談-”現代版冊封体制”へのステップでは?

2015年11月05日 15時04分13秒 | その他
「対話常態化への第一歩」=中台首脳会談で馬総統
 1949年10月の中華人民共和国の建国以来、台湾の中華民国との間には、長らく首脳会談の場を設けることはありませんでした。その理由は、首脳会談を行えば、相手側を相互に”主権国家”と見なすことになり、”一つの中国”を主張する中国にとりましては不都合であったからです。

 ところが、台湾での総統選挙を来年に控えた今月3日、台湾の総督府は、7日にシンガポールにおいて中国の習近平主席と中台首脳会談を開く予定にあると公表しました。マスコミの大方の味方によりますと、中台関係の安定を印象付けることで、来年の総統選において敗北が確実視されている国民党に梃入れをすることが目的のようです(仮に、この目的であれば、ソフトな脅迫路線…)。しかしながら、台湾国内では、若年層を中心に反中感情が渦巻いていますので、冷静に判断すれば中台接近策は”火に油”となり、逆効果が予測されます。にも拘らず、敢えて中台接近をアピールする背景には、別の意図が隠されている可能性があります。この点に関して注目すべきは、首脳会談に先立つ記者会見において、馬総統が、首脳会談の”常態化”に言及していることです。”常態化”とは、中台首脳会談の制度化を意味しており、来年の総統選における国民党の敗北も織り込み済みなのです。制度化に成功すれば、今回の首脳会談で然したる成果はなくとも、干渉ルートさえ確保できれば御の字なのでしょう。首脳会談の制度化は、先の日中韓首脳会談にも観察される中国の方針であり、独裁傾向の強い中国好みの手法でもあります。そして、敢えて華僑系の強いシンガポールが会談地に選ばれたのも、アジア一帯を見据えた”制度化”への野心の現れなのかもしれません(シンガポールは中国の”庭”?)。中国が目指す”制度化”とは、おそらく”偉大なる中華民族復興”の証としての”現代版冊封体制”の構築なのでしょう。

 歴史上の冊封体制では、国家間の対等な立場での対話の仕組みを欠いていたこと、そして、今日にあっても、中国は、対話による合意を一方的に反故にする傾向にあることを考慮しますと、中国が中心に位置する”現代版冊封体制”とは、馬総統が説明するような”意思疎通のルート”ではなく、毎年定期的に、中国の意向や要求を属国に一方的に伝えるルートとなるかもしれません。”現代版冊封体制”の成立を阻止してこそ、アジアのより良き未来は開かれるのではないかと思うのです。

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コメント (2)
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