万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

鼎の軽重を問うてしまった中国の岐路

2015年11月22日 15時27分51秒 | 国際政治
南シナ海、米の「介入」非難=「航行の自由」は誇張―中国首相
 マイケル・ピルズベリー氏の著書『China 2049』は、世界覇権を目指して張り巡らされてきた中国の”百年の計”を記した警告の書もあります。現在の中国は、今なおも戦国時代の戦略思考に支配されており、この時代錯誤の行動原則に中国の危険性の根源的原因があるようです。

 ところで、ピルズベリー氏は、この書の中で、中国の古代史から引き出され、今日でも使われている興味深い教訓を紹介しております。それは、『春秋左氏伝』に掲載されている「鼎軽重 未可問也」です。周の時代、周王室には天命を受けた証として九鼎が大切に保管されてきましたが、周王朝に衰退の兆しが見え始めますと、周からの使者、王孫満を迎えた楚王は、ついうっかり九鼎の大きさと重さを尋ねてしまいます。つまり、九鼎の軽重を問うたことで、隠してきた天下を狙う野心を楚王は見抜かれてしまったのです。この故事は、権威への挑戦者は、迂闊な発言で自らの野心を相手に知られてはならない、とする教訓となりました。戦国思考に染まっている現代中国もまた、この教訓を実践しているはずなのですが、南シナ海をめぐる一連の態度を見ますと、中国は、タブーであるはずの”鼎を問うている”としか見えません。南シナ海での人工島の建設は建設当時から軍事基地化の疑惑があり、今日に至るまで、厳しい批判を受けてきました。遂に、アメリカが”航行の自由作戦”を遂行するに至ったのですが、中国の主張は、”部外者による不当な介入は許さない”の一点張りです。アメリカをはじめ、日本国を含む様々なルートから国際法違反に関する説明を受けたにもかかわらず、全く聞く耳を持とうとしないのです。ということは、中国は、法の支配に基礎を置く現行の国際秩序に挑戦する意思を明らかにしたとしか言いようがありません。つまり、アメリカ、そして、国際社会に対して鼎の軽重を問うてしまっているのです。

 中国は、楚王のように、うっかりと本音を漏らしてしまったのでしょうか、それとも、遂に、従順な挑戦者の仮面を自ら剥がし、中国中心の華夷秩序構築に邁進する覚悟を表明したのでしょうか。古代から迷い出てきた中国の夢は、現代という時代ではもはや実現することはできず、消えゆく運命にあるように思えるのです。

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コメント (2)
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