万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ASEANの対中配慮は”南シナ海の融和”への道

2015年11月04日 15時04分05秒 | 国際政治
中国に配慮、共同宣言案から「航行の自由」削除
 マレーシアのクアラルンプルで開かれている拡大ASEAN国防相会議では、南シナ海問題をめぐる構成国間の対立が埋まらず、共同声明の発表も見送られる公算が高いと報じられております。当初の草案では、”航行の自由”の文言がありましたが、中国への配慮が原因のようです。

 ”中国への配慮”と言えば聞こえは良いのですが、順法精神を欠いた暴力主義国家への配慮は、違法行為の黙認を意味するのですから、後々、大きな犠牲を払う結末を迎えるものです。ヒトラーのヨーロッパ支配の野望を助長した”ミュンヘンの融和”は、たとえ時間稼ぎであったとしても、平和の名の下で独裁者に妥協した苦い教訓として歴史の語り草となりました。昨日公表された中国の「新五カ年計画」草案でも、「海洋強国」を建設する方針が示されており、その狙いが、”一路一帯構想”からも読み取れるように、南シナ海、否、東半球の海洋を中国の制海権が及ぶ”中国の海”と化すことにあることは疑い得ません。周辺に位置するASEAN諸国にとりましては、自国船舶の航行の自由が阻害されるのみならず、海路を支配されることで、政治・経済の両面において中国従属を余儀なくされる恐れもあり、切実な問題であるはずです。”中国への配慮”とは、突き詰めて考えてみますと、法の支配の放棄と暴力への屈服以外の何ものでもないのです。時にして、沈黙は、黙認という意味で抵抗よりも致命的な結果を招くこともあり、安易なリスク回避としての”配慮”は、隷従への道でもあります。

 サラミ戦術を得意とする中国の戦略は、ASEANの結束を内部から弛緩させ、対中批判で一致団結させないよう分断を図ることなのでしょうが、中国の戦略の裏をかく賢明な策を講じないことには、ASEAN諸国は、中国の魔の手に易々と取り込まれてしまいます。”南シナ海の融和”は、自滅行為ともなりかねないのですから、全ての諸国を守る砦でもある国際社会の法秩序と自由を守るために、ASEAN諸国も、暴力主義の封じ込めに足並みを揃えるべきではないかと思うのです。

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コメント (2)
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