万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

オバマ前政権が北朝鮮核保有容認路線であった疑い

2017年08月28日 16時02分51秒 | 国際政治
北朝鮮発射は「挑発」=「平和的圧力」継続―米国務長官
 アメリカのオバマ前大統領と言えば、“核なき世界”に向けて積極的に取り組む姿勢が評価され、2009年には、ノーベル平和賞も受賞したことで知られています。米ロ間では、戦略核弾道の削減を約する新戦略兵器削減条約を締結するといった成果を上げましたが、北朝鮮の核開発問題については、同国の保有を容認する路線にあった疑いが拭い去れないのです。

 核兵器の拡散は、特に、無法国家への拡散は、核保有国の核兵器削減にも増して国際社会にとりまして重大な脅威です。オバマ大統領は、“核なき世界”を政策目標として掲げた以上、そのスタンスから言いまして、あらゆる手段を講じてこれを阻止すべき立場にありました。しかしながら、同政権は、“戦略的忍耐”という“もっともらしい”政策方針を打ち出し、武力行使のオプションを仕舞い込むと共に、北朝鮮を刺激するとして制裁の強化にも消極的な態度を取り続けたのです。あくまでも、“話し合い路線”を堅持したのですが、同政権で国家安全保障担当補佐官を務めたスーザン・ライス氏の発言を聞きますと、最初から、核を放棄させる意思がなかったとしか言いようがないのです。

 ニューヨーク・タイムズ紙への寄稿として示されたライス氏の同問題に対する基本的見解とは、北朝鮮の核保有がもたらすアメリカに対する脅威は中ロといった核保有国と同じであり、核の抑止力によって十分に対応できる、つまり、北朝鮮の核保有を容認するというものです。武力行使も辞さないトランプ政権に対する批判が込められているのでしょうが、安全保障担当の大統領補佐官であったのですから、事態の緊迫化を受け、今に至って突然に思いついた見解とも思えません。同職にあった時から、政権内では“戦略的忍耐”の結果は予測済みであり、北朝鮮の核保有は想定内であったと推測せざるを得ないのです。

 となりますと、“核なき世界”の表看板とは裏腹に、オバマ政権こそ、否、“戦略的忍耐”という美名の下で北朝鮮の核開発を放任した点において、核の拡散を容認、否、間接的には促進したこととなります。ライス元大統領補佐官の発言は、図らずも、オバマ大統領の偽善を暴いたとも言え、同大統領が被爆地である広島を訪問した現職の米大統領であっただけに、日本国内でも失望が広がることでしょう。北朝鮮の核保有容認が民主党政権下の既定路線であることが分かっていれば、日本国政府にも、淡い期待を抱くこともなく、ミサイル防衛システムの拡充や対北独自制裁の強化、さらには、NPT体制の崩壊を見越した核武装の検討といった相応の準備ができたはずです(北朝鮮には核保有を認める一方で、日本国にだけは、”核なき世界”への協力、即ち、非核保有国であり続けることを厳しく求めていた?)。

 マスメディアでは、トランプ大統領によるバノン主席戦略官等の更迭を受けて、民主党政権時代の“戦略的忍耐”路線への回帰こそ対北政策の“正常化”とする論調も見受けられますが(もっとも、バノン氏更迭の原因は、北朝鮮に対する武力行使の否定にある…)、この路線を是とするならば、マスメディアを含めたリベラル派は、偽善に満ちた“核なき世界”の看板も下げるべきです。そして、今後、トランプ大統領が如何なる決断を下すのか、今の時点では分かりませんが、同盟国に対しては、国家と国民の運命がかかっているのですから、正直であっていただきたいと思うのです。
 
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