万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

反理性的行動こそ“北朝鮮”の戦略では?

2017年08月30日 16時16分23秒 | 国際政治
金正恩氏「日本人驚がくさせる」=火星12「成功」、米グアムへの前奏曲―北朝鮮
 今般の北朝鮮によるミサイル発射は、北朝鮮側の主観的な立場に立てば、アメリカ、並びに、同盟国である日本国に対する武力による威嚇であり、朝鮮戦争の延長線上にあります。いわば、“北朝鮮の戦争”なのですが、この“戦争”には、常識では理解しがたい幾つかの奇妙な点があります。

 主たる奇妙な点の一つは、北朝鮮の戦争目的です。1950年6月25日に始まる朝鮮戦争の目的は、韓国を武力によって併合し、“赤化統一”することにありました(民族統一戦争)。北朝鮮では、韓国側による侵略を発端と教えているそうですが、38度線を越えたのは北朝鮮側であり、朝鮮戦争は、自らが始めた戦争です。一方、国際社会では、北朝鮮の侵攻を侵略と見なします。‘国連軍’が結成されたのも、北朝鮮の行動を、武力で一方的に現状を変更する侵略と認定したからに他なりません(もっとも、国連安保理ではソ連欠席によって‘国連軍’の結成が可決された…)。

 朝鮮戦争の延長であれば、今般の軍事的威嚇の目的も“赤化統一(今日では金独裁体制の韓国への拡大…)”となるはずなのですが、北朝鮮は、アメリカに対して平和条約の締結を求めております。つまり、今般の“戦争”では、その目的は平和条約の締結に変化しているのです。平和条約が締結されるとなれば、当然に領土に関する条項が含まれますので、38度線を以って南北の国境が画定されることが予測され、事実上、“赤化統一”は断念されます。あるいは、平和条約において、韓国を含む朝鮮半島全域の北朝鮮による併合を求める可能性もありますが、この要求が非現実的であることは、北朝鮮側も百も承知なはずです。

 仮に、北朝鮮が、ある時点で、所期の目的であった“赤化統一”を諦め、平和条約の締結を以って北朝鮮の国家承認と領土画定を求める方向に路線を変更したならば、アメリカに対して積極的に攻撃を仕掛ける必要性もなくなるはずです。休戦協定を誠実に守っている限り現状は維持されますし、韓国に対する“領土要求”が放棄されれば、アメリカも、積極的に戦う理由を失うからです。しかも、公式には、平和条約の締結を求めるべき相手はアメリカ一国ではなく‘国連軍’であるはずです。朝鮮戦争の交戦勢力は‘国連軍’であり、朝鮮戦争の休戦協定でも、アメリカは、‘国連軍’の代表として署名しています。にも拘らず、何故か北朝鮮は、交戦相手であった‘国連軍’の存在を無視し、主要敵国をアメリカに定め、アメリカとその同盟国に絞った対米戦争を仕掛けているのです。

 こうした北朝鮮の態度は、極めて奇妙です。となりますと、今般の北朝鮮の“アメリカ敵国政策”には、別の目的があったとも推測されます。北朝鮮は、アメリカからの自衛を口実に、核やミサイル開発を正当化してきました。言い換えますと、“敵国”を国連からアメリカに巧妙にすり替えることで、国際法で禁じられている大量破壊兵器の保持・開発を正当化するとともに、小国でありながら、予測不能な無鉄砲な挑発を繰り返すことでアメリカや国際社会を揺さぶってきたとも言えます。北朝鮮の背後には、同国を資金、技術、人材等の面で支える“黒幕”が存在する可能性が高いのも、その目的と行動が一致していないからです。そして、永続的な軍事的緊張状態は、国内にあっては国民の危機感を煽り、団結を強制することで、金王朝とも称される軍事独裁体制の維持に悪用されているのです。

 北朝鮮の反理性的、かつ、非論理的な行動は、実のところ、国際法秩序の破壊をも目論んだ、計算し尽くされた戦略であるのかもしれません。そして、この策略は、北朝鮮による単独のものではないように思えます。北朝鮮問題を解決に導くには、背後に潜む闇こそ、見据えなければならないのではないでしょうか。

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コメント (5)
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