万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

“ユダヤ人”はユダヤ至上主義を捨てたのか?

2017年08月21日 15時24分56秒 | アメリカ
「人種差別は米国にいらない」4万人デモ
 アメリカでは、シャーロッツビルでの衝突を切っ掛けとして、白人至上主義者に対する抗議活動が活発化しており、マサチューセッツ州のボストンでは、“人種差別は米国にいらない”として4万人規模のデモも発生したそうです。この件に関しては、同様の排斥表現が散見され、“白人至上主義者はアメリカから出ていけ”の声も聞かれます。

 しかしながら、冷静になって考えても見ますと、“○○至上主義者を排斥せよ”という態度は、相当に危うい表現ではないかと思うのです。何故ならば、この原則を一律に当てはめれば、ユダヤ人排斥もイスラム教徒排斥も是認されるからです。しばしばナチスドイツによるユダヤ人排斥は絶対悪として批判されていますが、仮に、○○至上主義という思想を持つ者が排斥の対象となることが許されるならば、ユダヤ人も例外ではありません。ユダヤ人こそ、神から選ばれた民という選民思想の下で、全人類の支配を目指してきたからです。ドイツを舞台としたナチスのゲルマン至上主義とユダヤのユダヤ至上主義の激突が、悲惨なホロコーストを生んだとも言えます。また、イスラム教の聖典である『コーラン』には、明確に他の宗教を信じる者たちを侮蔑するよう勧めており、多神教徒に至っては殺害すら正当化されています。

 実際に、奴隷商人の多くがユダヤ人やイスラム教徒であった理由も、神の権威の盾にして自らを他民族に優越する特別の存在と見なし、他民族の人格、生命、身体等を無視した至上主義にも求めることができます。今日では、奴隷と言えばアフリカ大陸から連行された黒人奴隷を思い浮かべますが、近代以前には、むしろユダヤ人商人やイスラム商人の手によって、白人が奴隷として大量に売られたていた時代もあります。○○至上主義とは、得てして被害者よりも加害者になり易いのです。無防備な人々に対する無差別殺人を容認するテロも、テロリストが自らの出身民族、あるいは、自らが信じる宗教や思想を移民先のそれらよりも優先する心情によって齎されており、○○至上主義の排他性は、白人至上主義に限定されるわけではなく、差別を受けたとされる弱者やマイノリティーの側にも潜んでいるのです(歴史的に見れば、ユダヤ人は弱者とも被害者のみとも言えないかもしれない…)。

 今般の一件では、ユダヤ人の識者達も白人至上主義を厳しく非難しているようですが、果たしてユダヤ人は、他民族、否、全世界の支配を是とするユダヤ至上主義を捨てたのでしょうか。また、イスラム教徒は、『コーラン』に定められた殺人容認のイスラム至上主義を修正したのでしょうか。

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コメント (83)
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