万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

偽旗戦略と“ジパング”-現代への警告か

2017年08月20日 14時43分57秒 | 日本政治

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マルコ・ポーロの『東方見聞録』と言えば、日本国を金を豊富に産する黄金の国と描き、日本国を初めて西欧に紹介した書として知られています。“ジパング”という国名は西欧諸国における日本の呼称(英語表記では“Japan”)の起源ともなり、14世紀に記された書物でありながら、その影響は今日まで及んでいます。

日本国と『東方見聞録』は縁浅からぬ関係と言えますが、同書には、幾つかの点で興味深い描写を見出すことができます。もちろん、マルコ・ポーロ自身は日本国を訪れたわけではなく、その記述は虚実が入り混じり、必ずしも正確ではありません。しかしながら、別の意味で、何かを示唆するような意味深長な記述が多いのです。

 同書の日本記述において、黄金の国伝説と並んで特に目を引くのは、元寇の顛末です。マルコ・ポーロは、フビライ・カーンの謂わば“臣下”の立場にあったことから、他の諸国の項でもフビライの征服事業には特別の関心が払われています。フビライの日本遠征は失敗に終わったとしつつも、日本側が思わぬ窮地に陥った状況を詳しく記しているのです。何故、日本側が狼狽する事態が発生したかと申しますと、元軍の将校が逃亡したため、日本国の小島に取り残されてしまった元軍側の残兵3万人が、日本の軍隊を装って都(大宰府?)を占領してしまったからです。事の経緯は、小島に立て籠もっている元軍残兵を掃討するために船団を率いて上陸した日本の鎌倉武士達を煙に巻いて、元軍残兵が浜に停泊していたこれらの船団を奪い、日本の軍の旗を掲げて都に向けて進軍したことに依ります。都の住民たちは、元軍の残兵とはつゆとも知らず、何らの抵抗を受けることなく、元軍は易々と出陣で留守となっていた都を落とすことができたのです(最後は、都を日本軍に包囲され、元残兵側が降伏…)。

 このストーリーは、弘安の役における鷹島掃討戦を下敷きとしてはいるようですが、同掃討戦では、10万ともされる元軍は日本軍によって壊滅されています。元軍の大敗北は、日本側の史料のみならず、『元史』や『高麗史』にも記録されていますので(『元史』では、帰還できた者は南宋人3人のみとある…)、史実と見て間違いはありません。何故、マルコ・ポーロが敢えてフィクションと書き残したのか、まことに謎なのですが、あるいは、日本の征服に失敗した元側が、僅かなりとも日本国に打撃を与えたとする偽情報を国内向けに流していたとも推測されます。

 フィクションではあることは分かっていながら、この文章を読んだ際に、何とも言いようのない難い胸騒ぎがしたのは、『東方見聞録』は、過去ではなく、日本国の未来を語っているような感覚に囚われたからなのかもしれません。一途で他者を信じやすい日本人の国民性は、偽旗戦略に対しては脆弱です。凡そ700年前に、マルコ・ポーロ、あるいは、元朝が既に日本人の弱点を見抜いてフィクションのストーリーを書き上げたとしますと、その洞察力は驚きでもあります。今日、日本国の政界を見渡しみますと、“味方”をアピールする様々な“旗”が掲げられておりますが、『東方見聞録』は、偽旗戦略に対する警告の書のようにも思えるのです。

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